今年5月24日から連続5昼夜、一度に数十万の中国武装警察が実戦を伴う大演習(衛士−16)を行った。車両(装甲車?)1万台あまり、ヘリコプター16機、船艇13隻が演習に参加した。移動距離は15万キロ以上にのぼる。
(人民解放軍から分かれた)武装警察の数は、110万人から150万人と推計される。したがって、その約半分が今度の演習に参加したことになる。このような大規模な演習は、過去にはなかったという。
演習場所は、具体的に、北京、南疆、青海省果格、甘粛省甘南である。北京を除けば、中国西部だった。ちなみに、南疆にはウイグル族、青海省果格にはチベット族、甘粛省甘南にもチベット族が住んでいる。
同29日、全国31省市、3万人以上もの指揮官らが、テレビ電話で、その演習の総括を行った。そして、どの点が良かったか、どの点がまずかったかを反省している。
まず、刮目すべきは、首都北京が演習の対象になっている点だろう。習近平政権は、武装警察による北京防衛を想定している。他方、武装警察はウイグル族やチベット族を牽制するために演習を行ったと考えられよう。
近年では、2013年10月、天安門広場で、ウイグル族と見られる親子3人がジープで自爆テロを行った。その他、2人が死亡し、38人の負傷者が出た。翌月、「東トルキスタン・イスラム運動」が犯行声明を出している。爾来、ウイグル族は、連続してテロ事件を起こした。そのため、北京政府は、特にウイグル族に対して警戒を強めている。
さて、習近平政権は、この度、なぜこのような大規模な武装警察の実戦演習を行ったのだろうか。
香港で活躍する中国ウォッチャーのウィリー・ラム(林和立)によれば、習近平政権は、党内の(習主席に刃向かう)“陰謀家”を武装警察で殲滅するとアピールしたのではないかという。
また、目下、中国は経済状況が悪化し、デモやストライキ等の“集団的騒乱事件”増大している。そこで、習政権は、“騒乱事件”に対して、武装警察を使い、早期鎮圧を狙ったのではないかとラムはいう。
ところで、ウィリー・ラムの指す党内の“陰謀家”とは、一体誰なのだろうか。
普通に考えれば、習近平主席が推進する「反腐敗運動」(近頃では「文化小革命」とも称される)に抵抗する勢力となるだろう。言うまでもなく、「上海閥」と「共青団」である。
歴史を振り返れば、1989年4月、(当時、すでに失脚していた)胡耀邦が共産党の“腐敗”に対して、命がけで抗議を行った。そのため、胡耀邦は憤死している。これを契機に、天安門広場では大規模な「民主化要求運動」が起きた。
結局、ケ小平は、その「民主化運動」を“暴乱”と決めつけ、人民解放軍を使って弾圧した。「6・4天安門事件」である。
事件後、共産党トップに大昇進した江沢民は軍歴がないので、軍人の歓心を買うため“腐敗”を更に昂進させた。ついに共産党は骨がらみの“腐敗体質”となっている。
さて、ケ小平は江沢民の後継者に「共青団」の胡錦濤を指名した。胡錦濤はチベット自治区での活躍(弾圧)が認められたからである。その胡錦濤は、自分の後継者として、同じ「共青団」出身の李克強をトップに据えるつもりだった。
ところが、「上海閥」の江沢民と曽慶紅が、実績の乏しい「太子党」の習近平を担ぎ出した。胡錦濤に対する牽制だった。
よく知られているように、初め、習近平は“胡耀邦つながり”で胡錦濤・温家宝らと親しくしていた。
胡錦濤は胡耀邦によって見出されている。だから、胡錦濤は胡耀邦を敬愛していた。一方、習近平の父親、習仲勲は胡耀邦の盟友だった。そのため、習近平は、胡錦濤らに近いと見られていた。
ところが、習近平は自分が共産党総書記・国家主席になると、突然、掌を返す。習近平は、このままでは“腐敗”のため、中国が立ちいかなくなると考えたのだろう。
まず、習近平は、今度は自分をトップに推してくれた「上海閥」を徹底的に叩いた。実際、「上海閥」による“腐敗”はひどかった。同時に、習近平は「共青団」に対しても容赦なかった。
だが、一方では、習近平は身内の「太子党」へは“腐敗”のメスを入れていない。また、習は自らの家族も“腐敗”している。そのため、「反腐敗運動」は単なる権力闘争に堕した。
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