1989年6月4日、「天安門事件」発生以来、今年で27年経過した。同事件で大昇進を遂げた江沢民元主席が、今もって健在である以上、事件見直しは困難だろう。
他方、習近平政権は今年「文革50周年」にもかかわらず、「文革」に対する評価を曖昧にしている。それどころか、習主席は「第2文革」(「文化小革命」)を推進中である。
現在、中国最大の問題は、経済が停滞している点にある。そのため、共産党には余裕がまったくない。
それを象徴するかのように、今年4月30日、王毅外相は、我が国の岸田外相を北京に招いておきながら、会談冒頭、王毅外相は「もしあなたが誠心誠意で来たのであれば、私たちは歓迎します」と岸田外相に言い放った。
さらに、今月6月1日、王毅外相は、カナダ訪問時、カナダのディオン外相と共同会見をした際、同国記者に南シナ海問題や中国の人権状況に聞かれて、急に激昂している。
王毅外相は、特に後者に関して「中国への偏見にあふれた質問であり、傲慢だ。到底受け入れられない」、「中国の人権状況について、最も良くわかっているのは中国人だ」とカナダ人記者を怒鳴りつけた。
明らかに、王外相は何かにイラついている。その原因は、経済の低迷にあるのではないか。
さて、中国共産党が、いくらGDPの伸び率が6%台と主張しても、実際、景気は後退している。だからと言って、中央政府は巨額の財政赤字(地方政府・シャドーバンキングの負債を含め)を抱え、財政出動が難しい。
ここでは、台湾・マカオの経済から中国経済の状況を推測してみよう。
まず、台湾だが、同国は輸出全体の約26%を対中輸出に依存する(トップのオーストラリアに次ぎ、第2位)。台湾はGDP比では、対中輸出依存度が世界1(約16%)となっている。そのため、中国経済失速の煽りを受けて、台湾の直近のGDPは3期(9ヶ月)連続のマイナス成長である。
ちなみに、台湾は「リーマン・ショック」後、2008年第3四半期から5期(1年3ヶ月)連続でマイナス成長となった。
次に、マカオだが、同地はGDPの約60%をカジノに依存する経済構造となっている。マカオも直近のGDPは7期(1年9ヶ月)マイナス成長が続く。中国高官や中国人富豪が、マカオを豪遊しないからだろう。
「リーマン・ショック」後、マカオも2008年第3四半期から4期(1年間)連続でマイナス成長となった。マカオに関しては、現時点で、すでに「リーマン・ショック」後よりも経済が悪い。
以上のように、台湾やマカオの景気状況を見れば、中国の苦境は火を見るより明らかである。
中国唯一の成長方法は、AIIB(アジア・インフラ投資銀行)を使って、外需を伸ばすぐらいではないだろうか。そのAIIBすら、世界第1位の経済大国、米国と世界第3位の日本が加盟しないため、中国の金群立総裁は資金繰りに困っている。
元来、AIIBは、中国が他国(特に日米)のカネをあてにして創設した金融機関である。ADB(アジア開発銀行)を普通の銀行とするならば、AIIBはノンバンクと考えられよう。したがって、依然、AIIBは格付けされていない。
では、今後、中国はどうなるのか。3つのシナリオを提示したい。
第1のシナリオは、中国経済の悪化で「集団的騒乱事件」が増大する。全国的に、賃金の未払いによるデモやストライキが頻繁し、習近平政権はそれらを抑え切れず、一気に共産党政権が終末を迎える。
第2のシナリオとしては、権力闘争の果て、人民解放軍同士が戦闘を開始する。そして、内乱で国内が分裂するかもしれない。目下、「習近平派」と「反習近平派」(=「李克強派」)との間で、経済失政をめぐり責任のなすり合いが行われている。
第3のシナリオとして、共産党は国内の矛盾を隠蔽するため、あるいは人々の不満をそらすため、冒険主義的に外国との戦争に打って出る。
その際、人民解放軍のターゲットは、(1)東シナ海では、我が国の尖閣諸島と蔡英文政権下の台湾、(2)南シナ海では、西沙諸島(ベトナム)と南沙諸島(フィリピン・マレーシア・インドネシア等)だろう。
周知のように、現在、中国は「南シナ海の万里の長城」を構築しようとしている。
今月6月初旬、シンガポールで開催されたアジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアローグ)で、カーター米国防長官は中国が「自らを孤立させる万里の長城」を築く結果になるだろうと警告した。
他方、ルドリアン仏国防大臣は、EU各国に対し、南シナ海に海軍艦艇を派遣し、定期的に航行するよう、近く呼びかけるという。少なくとも、フランスが南シナ海での中国の“膨張”に関心を抱くのは注目に値しよう。
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