今年4月、国際通貨基金(IMF)は金融安定報告書を発表した。その報告書によれば、中国には返済できない恐れのある借金が1兆3000億米ドルあるという。
中国の銀行は、少なくとも7560億米ドルの損失リスクを抱えている。一方、投資会社が高利回りの「理財商品」など、「シャドー・バンキング」(ノンバンク)などにも多額の損失が及ぶ恐れがあると警告した。
そして、IMFは北京に早急な不良債権処理を求めている。
さて、最近、中国共産党は、内需の不振から外需の取り込みを図ろうとしている。内需の拡大が望めない以上、どうしても外需に頼らざるを得ない。
その典型が海外への中国高速鉄道売り込みである。だが、その中国高速鉄道に、暗雲が垂れ込めている。
第1に、インドネシアである。昨2015年、中国はインドネシアで我が国と高速鉄道の受注をめぐって激しい競争を行った。
北京は、インドネシアに高速鉄道を“丸抱えで請け負う”と約束した(事業費55億米ドルの全額融資する、政府の債務保証は求めない等)。ジョコ政権が、中国に建設を依頼しようと考えたのも無理はない。
そのため、昨年9月、中国がインドネシア高速鉄道敷設(ジャカルタ―バンドンの全長約140km)を受注した。そして、2019年の開業を目指していたのである。
ところが、インドネシア当局は、まず、中国から提出された書類が(英語やインドネシア語ではなく)中国語で記載されていたので、事業契約が調印できなかった。
また、中国とインドネシアの合弁会社が、一転して、事業失敗の際の保証をインドネシア政府に求めたのである。そのため、インドネシア側に、将来、負担を押しつけられるのではないかとの懸念が芽生えた。
今年2月、インドネシア当局は、その合弁会社に対し、地震対策を強化し、鉄道の耐用年数を60年間から100年間にするよう求めた。当局は、もしそれが改善されない限り認可を出さない方針である。
中国には技術力に限りがあるため、たとえ短い距離であっても、インドネシアで高速鉄道建設が困難に陥っている。
ひょっとすると、今後、中国に代わって、日本がインドネシア高速鉄道を請け負う可能性が出てきた。
第2に、ベネズエラである。同国でも、2009年、中国がティナコ―アナコ間全長400kmで、高速鉄道敷設を手がけた。この建設計画は75億米ドルで契約が交わされ、2012年に完成する予定だったという。
しかし、すでに同国には中国人スタッフが消え、習政権は、その建設を放棄したという。そして、現場に残された金目の物は、現地住民に持ち去られたと伝えられている。
もともと、ベネズエラは電力不足に悩まされていた。そのため、同国で高速鉄道を走らせるのには無理があった。
第3に、タイだが、初め、中国の借款で高速鉄道敷設(バンコクを起点に5線。特に、バンコク―ナコーンラーチャシーマー間)を計画していた。ところが、タイ側が急に、一部資金を自前で賄うことにした。
タイは、巨額な建設費を理由にして、中国に借款の金利引き下げや投資増額を要求した。これに対し、中国側はタイの要求をのみ、金利を2%に下げた。
それにもかかわらず、タイは中国の譲歩を受け入れず、自己資金で一部路線の建設を決めた。タイの高速鉄道も、先行きが不透明になっている。
第4に、習近平政権は、米国でも高速鉄道(ロサンジェルス―ラスベガス間全長370q)の敷設契約を締結していた。ところが、今月、その契約が破棄され、米高速鉄道は白紙に戻っている。
同路線は昨年9月、米エクスプレス・ウエスト社と中国の国有企業「中国鉄路総公司」が率いる中国企業連合の合弁事業として、今年9月にも着工予定だった。
だが、エクスプレス・ウエスト社は6月8日、合弁解消を発表した。その理由として、(1)米国では、中国企業連合による認可取得が難しい、(2)すでに工事に遅れが生じている、(3)米連邦政府が高速鉄道車両は米国内での生産を求めている、などである。
2日後、中国企業連合は新華社通信を通じて、米国側の一方的な合弁事業解消は、無責任であり、反対するとの声明を発表した。
中国の高速鉄道輸出は、国家戦略である「一帯一路」実現の手段である。そのため、北京は、採算度を外視しているので、ビジネスとして成立しにくい。このような杜撰なビジネス手法では、習近平政権は、おそらく今後も失敗を重ねるだけではないだろうか。
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