よく知られているように、香港の銅羅湾書店は、多くの中国共産党スキャンダル暴露本を出版・販売していた。
同書店は、1994年、林荣基が立ち上げた。だが、2014年、同店は巨流伝媒有限公司へ売却された。巨流の株主は3人で、桂民海が34%、李波の妻、蔡嘉蘋が34%、そして、呂波が32%の株を持っている。
さて、昨秋以来、銅羅湾書店関係者5人が香港から次々と姿を消した。皆、中国共産党に拉致され、中国大陸へ連れて行かれたのである。
最初に、同書店の店主・株主の桂民海(スウェーデン国籍)が、昨年10月、タイから拉致され、中国大陸へ連行された。
2003年12月、桂民海は故郷の浙江省寧波市で、飲酒運転をして女子大生を事故で死なせた。翌年8月、桂民海は、寧波市中級人民法院で「懲役2年、執行猶予2年」の判決を受けた。現在、桂民海は、この人身事故を理由に、1人だけ中国国内に残っている。
その後、同書店の実質的株主、李波(イギリス国籍)も、香港から姿を消した。最近、李波は、中国大陸から香港へ帰って来た。ただし、李波は自らの身に何が起きたか、一切公表していない。
今年6月14日、同書店の店長、林荣基がようやく中国から香港に戻って来た。そして、2日後の16日、林は「民主派」立法会議員の何俊仁(アルバート・ホー)を伴い、香港で会見を開いた。その会見には約80人のジャーナリストが来ている。
林荣基によれば、昨年10月24日、香港で拉致され、まず深圳へ連行された。その際、公安ではなく、習近平主席が作った「中央重大事件小組」が林荣基を捕まえたという。
しばらくして、林荣基は目隠しをされ、電車で寧波市へ連れて行かれた。そこで、約5ヶ月間、監禁された。林は弁護士も呼べず、電話もかけられず、自白を強要されている。
林荣基は、24時間監視下に置かれた。薄暗い部屋の中では、すべてが柔らかいゴムでできていた。机や椅子も柔らかい布で覆われていた。看守は、林荣基が歯をみがく際、ヒモ付きの小さな歯ブラシを渡した。林が歯ブラシを飲み込んで、自殺しないように注意を払っている。
林荣基は、当局から桂民海が社会に危害を与える書籍を出版したという調書を書けと要求されたことを明かした。さらに、林は、李波が当局から生活費として、1.5万米ドルを受け取ったことを暴露した。
会見では、林荣基は、このままでは、香港に保障された「一国両制」(一国家、二制度)が、「一国一制」(中国と同じ)になってしまうと危惧したので、証言したと述べた。
ところが、李波は、林荣基の発言に対し、林がデタラメを言っていると反論した。李波は、林荣基が自らの意志で中国大陸へ行ったと主張している。
また、林荣基と親しいという胡姓の女性(37歳)が、『星島日報』のインタビューに応えて、林は大嘘つきだと証言した。すでに香港へ戻って来ている書店員の呂波と張志平も、『星島日報』上で、林があんなに不誠実な人間だったと思わなかったと語っている。
ただ、今までの経緯から考えれば、李波らの主張には無理がある。おそらく、李波らは、中国共産党に本人や家族の命が狙われているので、真実を語れない状況にあるのではないか。
香港では、林荣基が証言した2日後の6月18日、林を支持する6000人以上の大規模なデモが起きた。香港の「一国両制」を死守しようとするグループが立ち上がったのである。
ところで、なぜ銅羅湾書店が中国共産党からにらまれたのか。それは、同書店が『習近平とその愛人たち』という本を出版しようとしていたからである。
周知の如く、目下、習近平政権は「反腐敗運動」を展開している。その最大のターゲットは「上海閥」である。
実は、本来「太子党」でもある曽慶紅(父親の曽山は、北京市副市長や内務部長まで務めた)の弟、曽慶淮は中国文化部駐香港特派員となり、香港で幅広い人脈を築いている。
仮に『習近平とその愛人たち』が出版・販売されたら最後、習近平主席は「上海閥」から激しい反撃を受けることになるだろう。
そこで、習主席は先手を打って、「中央重大事件小組」に同書の出版・販売阻止を命じ、銅羅湾書店関係者を拉致したに違いない。
つまり、同書店は、「太子党」習主席と「上海閥」の江沢民・曽慶紅との熾烈な権力闘争に巻き添えになった公算が大きい。
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