今年6月24日、英国ではEUに残留するか、それとも離脱するかを問う国民投票が行われた。
結局、EU離脱派(約1741万票)が残留派(約1614万票)に約127万票の僅差で勝利したのである。なお、得票率は52%対48%だった(投票率は72%)。
この国民投票は、デビット・キャメロン英首相が、保守党内で自分の権力基盤を固めるために打ち出した公約だった。投票前、同首相は、いかに英国がEUに残留する事が、同国にメリットがあるかを強調している。
一方、「イギリス独立党」のナイジェル・ファラージ党首やボリス・ジョンソン前ロンドン市長もはEU離脱を唱えていた。
EU離脱派は、英国へ押し寄せる移民やEUに束縛される英国主権等、EU残留のデメリットを国民に訴えた。そして、EUから離脱すれば、“バラ色の未来”がやって来ると主張したのである。
投票結果が判明すると、キャメロン首相は、早速、責任を取って、辞意を表明した。ただし、しばらくは首相として留まる。今年9月初旬に保守党内で新党首を選出し、その新党首が新首相となる運びである。
新首相の下、英国は、欧州委員会と欧州理事会等との間で離脱交渉を行う。今後、英国は27ヶ国と別々に関税交渉を行わねばならない。そして、英国は2年後をメドにEU脱退となる見通しである。
投票の結果が出た直後、英国民の間では、国民投票再実施の請願が起きた。すでに400万人近い署名が集まっている。離脱へ投票した一部の人(約7%=約122万人)さえも、自らの投票行動を“後悔”し、再投票を望んでいるという。
今度の国民投票結果を見ると、若い人ほど残留派が多く、年齢が高くなるにつれて、離脱派が多くなるという特徴があった。
英国の若者達は、幼い頃から学校に移民がいるので、移民達に慣れている。だから、移民に対し違和感を持たない。また、若者達は、雇用の機会を求めてEU内で自由に動き周りたいと思っている。
だが、一方、英国の高齢者は、周りの移民達に対し、違和感を覚えやすい。また、高齢者は、イギリスは特別だという「大英帝国」へのノスタルジーに浸る傾向にある。
英国EU離脱で、まず、「英国分裂」が問題となるだろう。近い将来、スコットランドや北アイルランドの独立運動が活発化することは間違いない。
次に、英国のEU離脱で一部の欧州も離脱へ動く可能性が出て来た。ヨーロッパ大陸でEU「離脱ドミノ」現象が起こるかもしれない。もしフランス・イタリア・スペインなどがEUから離脱したら、ヨーロッパ統合の理念はたちまち崩壊するだろう。
ところで、今度の英国のEU離脱を歓迎しているのは、ロシアと中国ではないか。
最近、中ロは2度も首脳会談を行っている。1度目は、6月23日、ウズベキスタンで開かれた「上海協力機構」(SCO)だった。
2度目は、同25日、プーチン大統領が中国を正式訪問し、北京で習近平主席と会談した。異例の事態である。両首脳は、英国EU離脱後の事を話し合ったと見られる。
ロシアは、中欧・東欧が次々にEU・NATOへ重複加盟し、NATOの国境がロシア側に迫って来るので、“脅威”を感じたに違いない。ロシアは、EUが一枚岩ではなく、バラバラの方が対処しやすいだろう。ひょっとしたら、ウクライナ問題を発端とするEUのロシアへの経済制裁が弱まるかもしれない。
実は、昨年5月、中国とロシアは「一帯一路」構想と「ユーラシア経済同盟」(ロシア、カザフスタン、ベラルーシ、アルメニア、キルギス)との連携に合意した。両国の思惑が一致した形である。
今年6月17日、プーチン大統領は、ロシアが主導する「大ユーラシア経済パートナーシップ」構想を打ち出した。旧ソ連5ヶ国で作る「ユーラシア経済同盟」に中国やインドなどを取り込む方針である。ロシアは「大ユーラシア経済パートナーシップ」によって、日米が参加するTPP(環太平洋パートナーシップ協定)に対抗するつもりだろう。
中国もロシアと同様、英国のEU離脱は歓迎しているに違いない。特に、中国にとって、英国は「一帯一路」の終点である。習近平主席は、昨2015年10月、英国を訪問し、表面的には大歓迎を受けた。
また、ボリス・ジョンソン前ロンドン市長は「親中派」と言われる。かねてから同前市長は、EUの規制があるため、中国とのFTAが締結できないと発言している。もしボリス・ジョンソンが英国首相になったら、中国は英国との経済関係が更に深くなるだろう。
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