今年7月15日夜(日本時間16日未明)、トルコで軍の一部によるエルドアン政権転覆のクーデターが起きた。一時、軍がテレビ局等を占領し、クーデターは成功したかに見えた。しかし、暗殺を逃れたエルドアン大統領がSNSを駆使し、直接、市民に訴えかけた。これが奏功し、結局、軍のクーデターは失敗に終わっている(ただし、このクーデターは、大統領による反対派粛清のための「自作自演」説がある)。
さて、トルコ軍によるクーデター未遂事件で、習近平主席が肝を冷やした事はあまり知られていない。トルコでクーデターが発生するやいなや、習主席は、腹心の栗戦書(中央弁公庁主任)に緊急会議の開催を命じた。いかに習近平主席がクーデターを恐れているか、その証左だろう。
習主席はすでに何度も暗殺されかけているが、今年の旧正月明け(2月14日以降)、ファースト・レディの彭麗媛への暗殺未遂事件も発生している。
栗戦書が主催した党政軍の会議では、今後、どのように国内でのクーデターを未然に防ぐかが討議された。このように、習近平政権が海外の事件に対しても神経を尖らせている。
他方では、習近平政権は東シナ海・南シナ海で、強硬姿勢を崩していない。周知のように、7月12日、国際常設仲裁裁判所が、南シナ海を巡る中比の紛争の裁定を下した。同裁判所は中国の「9段線」には根拠がないとして、フィリピンの主張をおおむね認めた。
しかし、習近平政権はその裁定を一切無視しようとしている。そればかりか、習主席は、退役軍人を招集し、解放軍に戦争の準備までさせている。
習近平政権が、どうして対外的に強硬策をとるのか。それは、政権基盤が盤石ではないからに違いない。そのため、習主席自身が、国内向けに海外へ向けて力を誇示する必要があるのだろう。
では、なぜ習近平政権は政権基盤が脆弱なのか。いくつの理由が考えられる。ここでは、主な2つの要因を挙げてみたい。
第1に、中国経済の長引く低迷である。
(1)「リーマン・ショック」以来、過剰投資・過剰供給により、現在、内需が不足している、
(2)「反腐敗運動」により賄賂が自粛され、経済活動が冷え込んでいる、
(3)国有企業の構造改革が遅々として進まない、
(4)不動産の過剰供給のため、北京・上海・深圳など1線級都市の不動産を除き、その価格が低迷している。一説には、34億人の住める住居がすでに建設されているという、
(5)中国全体の負債が大きい。中国社会科学院の研究によれば、中国にはGDPの2.5倍もの負債(約2650兆円)があるという、
(6)当局による株式市場や為替市場への場当たり的介入で、市場が混乱している、
(7)習近平主席や李克強首相が、海外で中国高速鉄道を売り込むが、失敗続きで、外需が増大しない、などだろう。
第2に、貧富の格差の拡大である。
香港『争鳴』(2016年7月号)は、国務院研究室、中央党校研究室、社会科学院三者による調査研究結果を公表した。
それによれば、中国大陸には、財産が1億元(約15億円)以上の財産を持つ人や家庭(戸)は、291.3万〜300万人(戸)にのぼる。
北京、天津、上海、杭州、広州、深圳の六都市に251.5 万人(戸)あまりの富豪が集中する。
特に、北京には最も多くの富豪(57.2万人<戸>)が住んでいる。その中には、10億元〜20億元(約150億円〜300億円)資産を持つ富豪が6万1250人(戸)、20億元(約300億円)以上の資産持つ大富豪が1万780人(戸)いる。
海外へ移民した官僚の家族ら約325万人は、合計、およそ7.2兆元〜7.6兆元(約108兆円〜114兆円)の資産を所有しているという。
また、中国共産党の「紅二代」・「紅三代」(党・政府幹部の子弟や孫)の8割がビジネスで大富豪になっている。「紅二代」の家族の子女はビジネスを始めて、平均5年以上で富豪となる。
一方、昨2015年11月、共産党自ら認めているように、貧富の格差が二極化し、その差がさらに拡大している。未だ、農村や都市に9000万人以上の最貧困層が存在する。
米国在住の中国研究者、何清漣によれば、中国大陸には、依然、60%前後の貧困層がいるという。仮に、中国の人口を14億人とすれば、およそ8.4億人が貧困層を形成する。もし15億人とすれば、 約9億人が貧困層となるだろう。
このような異常な格差は、中国社会を不安定化させている。
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