周知のように、近頃、訪日中国人観光客による“爆買い”が一服した観がある。一部の大手デパートは、中国人観光客をあてにしていたが、最近は売り場には閑古鳥が鳴いている。
現在、中国には約2.3億人の中間層が存在すると見られる(ちなみに、中国の人口約60%が貧困層)。
かつては、中国富裕層(主に共産党幹部とその一族らか、彼らに近いヒジネスマン)が、北米の不動産を購入した。
最近、カナダ・トロントでは、今まで不動産は5〜10年で20%程度の値上がりペースだった。ところが、トロントの不動産は、ここ1年だけで20%も値上がりした。中国人中間層が不動産を購入しているからである。そのため、現地の不動産屋は頭を痛めている。
トロントと同じように、カナダ・バンクーバーも、同様に値上がりしている。当地では、昨2015年には、一戸建て住宅の平均価格が30%も高騰した。中国人の購入は、96億米ドル(約9800億円)にも及び、当地の全売買の33%を占めている。現地のカナダ人は飲まず食わずに20年経ってやっと一戸建て住宅が買える程度である。
そこで、ブリティッシュ・コロンビア州は、今年7月25日、突如、翌8月2日から、海外からの不動産購入者に対し、15%の不動産譲渡税を課すと宣言した。
他方、米国では、2016年3月まで、過去一年、中国人住宅購入は、2万9195件にのぼる。その総額は270億米ドル(約2兆7540億円)、平均価格は93.7万米ドル(約9557円)だった。昨年が83.2万米ドル(約8464万円)だったので、1年で1件当たり1000万円以上の値上がりである。
ちなみに、海外の住宅購入価格の平均は47.75万米ドルと言われるので、現在、米国では、その約2倍もする価格の住宅が購入されている。
ところで、2000〜2013年、米国永住権(グリーンカード)を取得した中国人は、約90.3万人で世界第2位である(1位はメキシコ人、3位はインド人)。
これら中国人中間層が、北米の不動産を購入するのは、中国国内とは違って、安全資産だからではないだろうか。損失を被ることがきわめて少ない優良物件である。
周知のように、中国の不動産は、都市部は国有であり、農村部は集団所有となっている。
同時に、(中国富裕層のみならず)中間層も、国内で社会的大変動が起きた場合、北米が避難地となるだろう。中国人は、いざと言う時の逃げ場を作っているとも考えられる。
一般的に、中国人は、次の方法を採って、中国から海外へ移民する。
まず、自分の子供を海外へ留学させる。子供が留学していると、両親が同国での住民権を取りやすい。その後、自分の妻(時には愛人)が同国で不動産を購入し、そこに居住する。あとは、機を見て、本人が中国を脱出すれば良い。
ただし、官僚の「裸官」(中国に1人中国に残っている)が米国等へ高飛びした場合、中国公安がわざわざ現地に赴いて、中国へ引き戻すケースがある。
ちなみに、2013年に公開された映画『北京ロマンinシアトル』(原題:北京遇上西雅図、英題:Finding Mr. Right)は、中国富豪の愛人が、米国シアトルで出産する物語である。この作品は大ヒットした。
特に、北米は中国人富裕層・中間層にとって人気である。子弟への教育環境は充実しているし、住居環境も良い。また、米国・カナダは法治国家なので、人権がしっかり守られる。
本来ならば、中国人エリート層は他国への移住を考えるより、自国内で、住居環境を整え、人権が尊重される体制作りをすれば良いのではないか。
しかし、中国では、しばらくそれが達成される見込みはないだろう。多くの中国人その点をよくわかっている。環境一つをとっても、日増しに悪化している。空気・水・土壌・河川はますます汚れている。
また、中国は依然、民主主義はほとんど導入されず、ほんの一部だけで民主主義が行われている。
例えば、2012年以降、広東省の烏坎村で、実験的な民主主義が行われていた。けれども、同年3月、民主的に選ばれた林祖恋・村長は、今年6月17日、収賄の容疑で逮捕されている。濡れ衣を着せられた公算が大きい。
そのため、烏坎村民は当局に対し、ほとんど毎日のように、林祖恋釈放の抗議デモを行っている。
中国に本当の民主主義が導入される日は、いつになるのだろうか。
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