よく知られているように、目下、中国にとっての喫緊の課題は、「ゾンビ企業」(採算の取れない赤字続きの企業。主に国有企業)の改革に他ならない。北京政府は「ゾンビ企業」を倒産させるか、それとも、現状を維持し、労働者の雇用を守るか難しい選択を迫られている。
もし「ゾンビ企業」が次々と倒産したら、失業者は街を埋め尽くすだろう。そして、デモが多発し、たちまち中国全体が不安定になるに違いない。
実は、習近平主席は、「強力で優秀で大きい」国有企業を作ろうとしている(確かに、素晴らしい業績を上げている一部国有企業もある)。
けれども、「ゾンビ企業」が存続する限り、中国の構造改革は進まず、中国全体の負債は膨らむばかりである。中央政府の財政はさらに逼迫するだろう。いつまで、北京はそれに耐えられるのか。
2016年7月、中国人民大学国家発展・戦略研究院が『中国「ゾンビ企業」研究報告』を発布した。
それによると、2005年から2013年の間、工業部門34万4838社中「ゾンビ企業」割合は全体の7.5%を占めるという。
特に、鉄鋼、不動産、電力、熱エネルギー、冶金、石油加工等に「ゾンビ企業」が多い。不動産部門では「ゾンビ企業」が44.5%も存在し、また、水の生産・供給部門では、4分の1以上が「ゾンビ企業」となっている。
昨2015年、上場している鉄鋼企業の場合、27社の国有鉄鋼企業は、国家から全部で65.6億元(約984億円)にのぼる各種の補助金を獲得した。平均では、1社当たり、2.4億元(約36億円)となる。
一方、7社の赤字民間鉄鋼企業の場合、全部で2.6億元(約39億円)の補助金で済んでいる。1社当たり、3700万元(約5億5500万円)となるだろう。
鉄鋼に関しては、民間企業の方が国有企業よりもかなりマシである。ただ、「ゾンビ企業」は鉄鋼部門だけではないことをわれわれは銘記すべきかもしれない。
さて、話は変わるが、今年の北戴河会議を直前に控え、奇妙な噂が流れている。中国共産党は「総統制」(大統領制)導入を企図しているというのである。
確かに、習近平主席とその周辺が主張しているように、緊急時に政治局を開催するのは、時間がかかる。地方のトップとして赴任している政治局員を北京に招集しなければならないからである。
以前から、習近平主席に権力を集中させようとする動きがあった。今度は、実際に「総統制」を制度化しようとしている。
1966年、毛沢東主席が、「四人組」と共に「文化大革命」を起こした。いわば、毛主席と劉少奇やケ小平ら「実権派」との間で、路線対立が先鋭化したためである。いったん「文革」が開始されると、共産党は、毛主席の“独断専行”を抑えられなかった。
1976年「文革」終結後、2度とこの悲劇を繰り返さないために、共産党は「集団指導制」を取り入れた。
政治局常務委員(原則は7人)らは、その序列に関係なく、1人1票で物事を決定するという“民主主義”システムが作動していた。もし、そこで決まらない場合には、政治局(常務委員7人プラス18人の政治局委員)全体の25人で協議する方式を採ってきた。
今後は、それをやめて、習近平主席は、「文革」時のように、主席1人だけで専制政治を行うシステムを採用しようとしている。
ただし、習主席が、毛主席のような功績やカリスマを持つならば、「総統制」への改変も理解できなくはない。しかし、習近平主席にどんな功績やカリスマがあるというのだろうか。
言うまでもなく、現在、「太子党」出身の習近平主席は「反腐敗運動」を展開している。
習近平・王岐山連合は、「太子党」の人間の腐敗には完全に目をつむり、政敵の「上海閥」や「共青団」だけを恣意的に打倒している。そのため、「上海閥」や「共青団」の怒りを買い、かえって、党内を二分するほどの熾烈な闘争が行われている。
他方、はたして習近平主席に毛沢東主席ほどのカリスマを持つのだろうか。大きな疑問符が付く。習主席は「中国革命」を行った世代ではないし、軍歴も皆無である。また、一般民衆を魅了するだけのカリスマがあるようには見えない。
仮に、習近平政権が「総統制」を採用しても、その基盤が脆弱であることは、火を見るよりも明らかだろう。
|