近年、中国では環境問題を巡り、住民デモが頻発している。
今年(2016年)7月28日、中国核サイトに「1000億元(約1兆5000億円)を投じて連雲港に核廃棄物処理工場(以下、核処理工場)が建設」という記事が掲載された。
これを契機に、翌8月6日から江蘇省連雲港市では、核処理工場建設反対を掲げる数千人以上のデモが連日繰り広げられた。
同月10日未明、連雲港市当局は、核処理工場建設プロジェクトの一時停止を発表した。しかし、同市では、当日も住民のデモが起き、1000人以上の警察巡ら隊が住民と激しく衝突した。装甲車も多数出動し、住民100人以上が逮捕されている。
翌11日には、住民1人が警察官に撃たれた。市政府は武装警察を投入し、住民との間で流血の事態にまで発展している。
ネットでは、8月15日、連雲港市ゼネストが呼びかけられた。そこで、江蘇省徐州等から“暴乱防止部隊”が連雲港に送り込まれた。その後、連雲港市でゼネストが起きたと伝えられていない。
実は、2013年、中国広核集団(国有企業。以下、中核集団)が広東省江門市鶴山県に核廃棄物処理工場の建設をしようとしたが、住民の強い反対で断念している。
2015年、中核集団傘下にある瑞能科技股份有限公司が核処理工場建設地域の選定を開始した。中核集団(70%)と仏アレバ社(30%)が協力して2020年に同工場建設を着工し、2030年には操業を予定している。
目下、中国当局は、山東省、江蘇省、福建省、広東省など6省で、核処理工場建設地域を模索中である。
広東省湛江市にも、核廃棄物処理施設建設の候補地となったとの噂が流れた。すると、その途端、ネットで800万人の抗議デモが呼びかけられている。広東省は香港に近いので、香港住民も呼応し、湛江市のデモが激しくなる恐れがある。
仮に、北京が連雲港市や湛江市以外の場所に核廃棄物処理施設を建設しようとも、必ずや激しいデモが起こるだろう。いくら“強権的”な習政権といえども、権利意識が強くなった住民を抑えつけるのは容易ではない。
さて、今日、中国では原子力発電所が、32基稼働中である(22基が建設中)。今後も、北京政府は原発を100基以上までに増やす予定だという。
中国では発電量の約75%(2014年)が火力発電である。火力発電の主力は、中国産の石炭が担う。原発の発電は、発電量全体のわずか2.3%(同)に過ぎない。
昨今、中国では環境汚染が大きな社会問題となっている。石炭による発電が全体の約6割を占める。だが、これが大気汚染の主因であることは間違いない。また、地球温暖化の原因と言われる二酸化炭素削減のためにも、中国は原発でのエネルギー供給が不可避である。
原発を稼働させれば、必ず核廃棄物が生じる。全体の97%が中低レベルの放射能だが、残りの3%が高放射能である。だが、その処理が難しい。
中国では、年間150トンの高放射能廃棄物が出る。1985年来、中国では高放射能廃棄物の研究が行われてきた。甘粛省北山に、初めて核廃棄物処理施設―「北山1号」―が作られた。地下500メートルほど掘って、そこに高放射能廃棄物を埋めている。
一方、台湾の場合、第1原発(新北市・金山2基)、第2原発(新北市・国聖2基)、第3原発(屏東県・馬鞍山2基)の合計6基が稼働している。だが、最新の第4原発(新北市・龍門2基)は、建設が中止された。
1990年代以降、台湾政府は、北朝鮮への核低レベル廃棄物移送を計画してきた。北朝鮮は、なぜか台湾から核廃棄物を受け容れ、貯蔵しようとしたのである。
平壌は外貨が必要だったのだろうか。それとも、北京やソウルを牽制するため、故意に台北と関係強化しようとしたのだろうか。
しかし、台湾政府による北朝鮮への核廃棄物移送計画は、浮上しては立ち消えになっている。
2012年、行政院原子力エネルギー委員会が、台湾本島の南東沖離島、蘭嶼(旧ヤミ族<現在はタオ族と呼称>の居住地)に設けられた台湾電力の放射性廃棄物貯蔵場を調査した結果、「異常なし」と発表した。
周知のように、今年5月20日、民進党政権が政権を奪還した。早速、蔡英文総統は蘭嶼に設けられた核廃棄物処理が、国民党政権時代、どのような経緯で建設されたのか調査するよう指示を出している。
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