今年(2016年)9月4・5日、中国杭州市でG20首脳会議が開かれた。
既報の通り、オバマ米大統領が、エアフォースワン(大統領専用機)から杭州空港に降り立った時、VIP用赤い絨毯付きタラップが用意されていなかった。そのため、オバマ大統領は、飛行機の機体から出された階段を降りてきた。
また、習近平主席と他国との首脳会談には、必ず相手国の国旗が掲げられていた。だが、日中首脳会談の際には、なぜか日の丸が掲げられていなかったのである。
そのような中国の外交儀礼を欠いた振る舞いは、大国としていかがなものだろうか。
さて、その直前の3日、ホスト役の習近平主席がB20ビジネスサミットの基調演説を行った際、原稿を一部読み間違え、内外から失笑を買っている。
習主席はスピーチの中で、古典の『国語・晋語四』の中に出て来る「軽関易道、通商寛農」の故事を引用した。
これは、「税や関税を軽くし、(匪賊・盗賊を排除して)交通網を整備し、貿易を行い、農業政策を緩和する」という意味である。
ところが、習主席は、あろうことか「通商寛農」の部分を「通商寛衣」と誤読したのである。“寛衣”では、服を脱ぐ、裸になるという意味となってしまう。
簡体字で寛農は宽农と書く。確かに、农と衣は字が似ている。しかし、発音と意味がまったく異なる。習近平主席が「貿易を行うために、裸になる」と言ったらまずいだろう。
そこで、すぐさま中国当局によって、この部分がネット上から削除された。現体制下、習主席の名誉は断固守られなければならないからである。
しかし、外国人には、「通商寛衣」という中国語はわからない。無論、翻訳もされていない。それにもかかわらず、中国共産党は習近平の言い間違いを躍起なって隠そうとしている。共産党の自信のなさの表れではないか。
これに激怒した彭麗媛(ファーストレディ)は、早速、王滬寧・栗戦書・劉鶴ら側近を呼びつけて叱り飛ばした。そして、彭麗媛は、なぜこのような紛らわしい古典を引用したのかと問い詰めた。栗戦書は、本番前の予行練習段階では、何の問題もなかったと言い訳している。
実は、1969年、習主席は陝西省延安市延川県へ下放(毛沢東時代、青少年は知識だけでなく労働も必要だとして、農村での労働を強いられた)されている。1975年、習主席は名門、清華大学化学工程系へ進学した。
だが、当時、「文化大革命」中である。この年、まだ大学入試試験等は一切行われていない。だから、習主席は推薦で清華大学に入学している(卒業は1979年4月)。
その後、習近平主席は、清華大学人文社会学院(マルクス主義理論・思想政治教育専攻)で法学博士の学位まで取得した。
しかし、今度の件で、習近平主席は一部の中国知識人から顰蹙を買った。習主席の教養に対し、大きな疑問符が付いてしまったのである。
もちろん、習主席といえども人間なので、間違いはあるだろう。だが、間違っても仕方ない間違いと、絶対に許されない間違いがある。今回は、後者だった。
そのため、「通商寛衣」は、習近平主席の政治的生涯に一生付いてまわるだろうとの指摘もある。
ところで、G20では、映画監督の張芸謀(『紅いコーリャン』、『菊豆』、『秋菊の物語』、『初恋のきた道』等。2008年の北京五輪を演出)が大型山水音楽劇を担当した。
張はその演出成功を祈願するため、杭州市西湖の西に位置する霊隠寺(雲林禅寺)へ参拝した。杭州で一番古い名刹である。
よく知られているように、中国共産党は、公式には宗教を否定している。共産党はマルクス・レーニン主義こそが依るべき信仰である。
ところが、その共産党員が、「第2信仰」を持っていると疑われている。だが、現実には、共産党員の90%がマルクス・レーニン主義を信奉せず、神仏を信仰しているという。
江沢民元主席や失脚した周永康らも宗教を信仰している。中国共産党という党は、あまりに建前と実態の乖離が大きいのではないだろうか。
|