今年(2016年)9月9日、北朝鮮は、その建国記念日に、第5回目となる核実験を行った。どうやら、北は核弾頭の小型化に成功したとみられる。
国際社会は、北朝鮮に対し許しがたい暴挙として非難した。とりわけ、オバマ米大統領、安倍首相、朴槿恵韓国大統領は、口を極めて金委員長を指弾している。そして、日米は新たな北への制裁を模索している。
国連安全保障理事会も、国連決議違反だとして、北を非難し、厳しい経済制裁を課すとした。
けれども、金正恩政権が、今更、国際社会の声に耳を傾けるとも思えない。体制の生き残りをかけて、核やミサイルを開発しているのである。
周知のように、金正恩委員長による「瀬戸際政策」の狙いは、一つには、米朝会談実現のため、もう一つには、北朝鮮が「核保有国」として、国際社会に認めてもらうためである。したがって、北が核・ミサイル開発を止めるわけもない。
さて、日本のテレビに登場するコメンテイターは、相変わらず北朝鮮の日米韓への脅威だけを口をする。そして、彼らは中国を一つの単体国家だと見なす傾向がある。
確かに、それらのコメントは、表面的には間違ってはいない。だが、あまりに北朝鮮対日米韓という図式を単純化していないだろうか。国際政治は複雑怪奇である。表面だけでなく、同時に裏面もしっかり見なければならない。
軍事的に、中国の一部(旧瀋陽軍区=「上海閥」。現、北部戦区)は、北朝鮮と“一体化”している(軍事評論家の鍛冶俊樹氏)と見るべきではないか。
中国の北部戦区は、現在もなお、北朝鮮を経済支援しているだけでなく、核・ミサイルをも技術指導していると考えられる。
そのため、北のターゲットは、必ずしも日米韓3国だけではない。当然、今の北京政府(「太子党」)も、金正恩党委員長の標的に入っていよう。
例えば、今春、西岡力「救う会」会長が明かした情報によれば、「中国が制裁するということで、金正恩は、『中国共産党は俺を倒しに来るのか。 それだったら上海と北京に核を打ち込んでやるぞ』と言ったという」(今年5月30日配信の『産経新聞』ニュース」)。
他方、今年9月5日、北朝鮮は短距離弾道ミサイル「スカッド」、あるいは中距離弾道ミサイル「ノドン」を日本海へ向けて連射した。
まだ北京がG20杭州サミットを開催している最中である。確実に、習近平主席は面子を失うだろう。だが、北朝鮮はあえてミサイル連射を実行した。北の習主席に対する“嫌がらせ”以外、考えにくい。
ここで、我々の以前からの主張をもう一度整理しておきたい。
まず、金正恩党委員長の叔父、張成沢はなぜ粛清されたのか。それは、張成沢が、正恩を排除するクーデターを起こそうと画策した事が暴露されたからである。
2012年夏、張成沢は北京で当時の胡錦涛主席(「共青団」)と会談した。その際、張は正恩の兄、正男(長男)を正恩の代わりに北の指導者に据えたいと胡主席に伝えた。
ところが、その情報が周永康(「上海閥」。現在、無期懲役の刑に服している)によって正恩にもたらされた。それに激怒した正恩が、2013年12月、張成沢を粛清したのである。
2012年秋、習近平政権(「太子党」)が誕生すると、まもなく「反腐敗運動」を開始して「上海閥」を徹底的に叩いた。
その標的になったのが、「東北のトラ」と呼ばれた徐才厚(「上海閥」)である。徐は瀋陽軍区を牛耳っていた。
しかし、2014年6月、徐才厚は「反腐敗運動」によって党籍を剥奪され、同年10月、起訴された(2015年3月、膀胱癌による多臓器不全で死亡とされる)。
同年7月、習近平主席は、徐才厚の失脚後、早速、瀋陽軍区を掌握するためか、司令員、王教成(2012年10月〜)と政治委員、褚益民(2010年12月〜)の2人を上将へ昇格させている(この時の上将昇格人事は全部で4人)。
同様に、習近平主席は軍事改革を行い、今年2月、7大軍区を5大戦区へと編成した。その主な狙いは、コントロールの効かない瀋陽軍区を、完全に自己の支配下に置こうとしたのである。
現在、北部戦区の司令員、宋普選は習主席の側近で旧北京軍区から送り込まれた(2015年「9・3大閲兵」を指揮)。
他方、北部戦区政治委員の褚益民は、引き継ぎ旧瀋陽軍区から北部戦区の政治委員となった(ちなみに、旧瀋陽軍区の司令員、王教成は南部戦区司令員への異動)。
以上のように、習近平主席が、北朝鮮への影響力を持つ北部戦区をしっかり掌握しているのか疑問が残る。ただし、金正恩党委員長が北部戦区のグリップが効かず、“暴走”している可能性も捨てきれない。
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