今年(2016年)9月10日夜、突然、天津市トップの黄興国が重大な規律違反(往々にして収賄か女性問題である)があったとして解任された。一説には、黄興国の弟、黄興栄が密輸を行っていたという。失脚前日には、黄興国は台湾の胡志強国民党副主席(前台中市長)らと会っていた。
実は、2014年7月、天津市公安局長の武長順が中央紀律検査委員会に調べられていた。そして、翌15年2月、武は党籍を剥奪され、公職を追放されている。また、今年8月22日には、天津副市長の尹海林が規律違反で調べられ、同30日に解任された。
中央紀律検査委員会は、ターゲットとした人間の周囲、それも下位ランクの人間から上位ランクへ向かって調査していくのが、その基本的手法である。すでに黄興国失脚の予兆は十分にあった。
周知の如く、天津市は北京政府のお膝元で、中国4直轄市(北京・上海・天津・重慶)の1つである。1949年、新中国成立以来、天津は北京に近いので、各派閥が当地で様々画策するようになった。
さて、黄興国は、故・黄菊(元上海市委員会書記、元政治局常務委員)の“甥”と言われる。黄興国は、長らく天津市長(2008年1月〜2016年9月)を務めてきた。同時に、天津市委員会書記“代理”を20ヶ月以上務めている(ちなみに、中国の場合、市長よりも委員会書記の方が格上となる)。
前任者の孫春蘭が統一戦線部部長へ異動したため、黄興国は天津市委員会書記“代理”となった。だが、なぜか黄はいつまでも“代理”が取れなかった。
問題は、黄興国は、一体、どこの派閥に属していたのかだろう。
一般に、黄興国は習近平主席の「之江新軍」に属していたと見られている。2002年、習主席が浙江省委員会書記になった際、黄はすでに浙江省委員会常務委員と、寧波市委員会書記を務めていた。また、2016年1月、黄興国は早くから習主席を「核心」と呼び、主席への忠誠を誓っている。
今度の黄興国失脚は、今まで「反腐敗運動」の標的になってきた「共青団」と「上海閥」が連携して、黄の腐敗を暴き出した。これを両派閥による習近平主席への“反撃”と見るむきがある。
だが、一方では、黄興国は習主席よりも張徳江や張高麗に近いとも言われる。だから、黄の失脚は、習近平政権を更に固めたと見る人もいる。
黄興国の“おじ”とされる黄菊は、江沢民、陳良宇らと共には「上海閥」の中心的メンバーだった。本当に黄興国が黄菊の“甥”ならば、当然「上海閥」に属していてもおかしくはない。
ただ、中国要人は、一度にいろいろな派閥に属する事もあるので、どちらの派閥と言えない場合もあるだろう。
近く開催される予定の18期6中全会で、来年2017年秋の人事がほぼ固まる。それを目前に控え、黄興国が失脚した意味は大きい。一時、黄興国は政治局常務委員(中国最高幹部)候補とも言われたからである。
振り返れば、中国共産党第15回全国代表大会(1997年秋)前の1995年、陳希同(北京市委員会書記)が失脚した。第17回党大会(2007年秋)前の2006年、陳良宇(上海市委員会書記)が失脚した。第18回党大会(2012年秋)直前の2002年、薄熙来(重慶市委員会書記)が失脚した。そして、第19回党大会(2017年秋)前の2016年、黄興国(天津市委員会書記代理)の失脚である。
なぜこのような事が起きるのか。熾烈な党内闘争の結果である。特に、4直轄市の委員会書記は、しばしば政治局常務委員に昇格する可能性を持っている。
ところで、昨年8月12日夜半、天津浜海新区で大爆発があった事は記憶に新しい。化学薬品を取り扱う会社(瑞海国際物流有限公司)が、倉庫で爆発を起こした。そして、地表には直径約100メートルの大きな穴が開いた。未だに原因不明である。
中国当局は、公式的に死者165人と発表しているが、実際には最低でも1000人以上は死亡しているだろう。最初、武装警察は死者数を1400人と発表していたのである。
この時、黄興国は、何ら責任を取っていない。普通、あれだけの大爆発事故を起こしたのなら、責任を取って辞職するのが当然ではないか。
黄興国失脚後、天津市トップの後任には誰がなるのか注目された。張春賢(前新疆・ウイグル自治区委員会書記)との噂があった。だが、結局、李鴻忠(湖北省委員会書記が天津市へ異動)が天津市委員会書記に昇進している。
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