これまでの日韓関係は、様々な原因で政治レベルの関係が不安定な状態に陥っても、自衛隊と韓国軍の関係が揺らぐことはなかった。しかし、現在の米国を含めた日米韓の関係は、かつてないほど不安定になり、ミリタリーの関係も「安全装置」として十分に機能していない。日本の防衛省は、韓国大統領李明博による昨年の竹島上陸以来希薄となっていた日韓の連携を立て直そうとしていたが、韓国は、防衛相との会談ならびに海上幕僚長の韓国訪問を拒否してきた。陸上自衛隊は、陸将よりも下位の陸将補を訪韓させようとしたが、それも一方的に韓国側にキャンセルされた。韓国の『2012年版国防白書』は、竹島の写真3枚と地図1枚を掲載し、日本との領有権の争いが以前よりも強調されている。また昨年は、日韓間の「軍事情報包括保護協定(GSOMIA)」の締結が韓国側の都合で突然延期された。
現在、日米同盟の役割は、中国に対する抑止力だと思われがちであるが、その主目的は、戦後一貫して朝鮮半島有事への対応である。あまり知られていないが、日本は、北部九州地域で韓国有事支援のための強力な体制を維持している。7か所の航空基地や4つの自衛隊病院があり、佐世保基地は半島有事の際に日米韓のために最大限に活用されると思われる。しかし韓国軍は、冷戦後の1991年版の国防白書以来、日本に対する厳しい見方を示すようになった。日本は、韓国軍の近年の戦力増強に対して強い不信感を抱かざるを得ない。韓国軍は、大きな陸上戦力の北朝鮮と対峙しているにも関わらず、陸上戦力を大幅に削減する一方で、イージス艦や潜水艦の数を増やし、済州島に大規模な海軍基地を建設している。また韓国は、弾道ミサイルの射程を800キロに延長したことと射程1500キロの陸上発射型巡航ミサイルを配備したことを公表した。こうした振る舞いによって、韓国軍は、日本と自衛隊を仮想敵として見做していると思われても仕方ないのではないか。
《ディスカッション》
・韓国軍は自衛隊との関係の重要性を理解している。しかし韓国の政治家が大衆に迎合するようになったため、ミリタリー同士のハイレベルの交流が途絶えるようになった。
・日本には朝鮮半島有事の際に使用される国連軍の基地が7つあるが、韓国は国連軍地位協定に調印していない。このことを両国民に知らせるべきである。
・伝統的な事大主義により、韓国は中国に引き込まれつつある。
・現場レベルでのミリタリーの関係が安定していても、今後日韓の関係が良くなるかどうかは期待できない。
・日本は防衛白書を毎年出版する必要があるのかどうか議論すべきである。
記
テーマ: 「仮想敵国 韓国軍が狂わせる日米韓の歯車」(WEDGE July 2013より)
講 師: 勝股秀通氏 (読売新聞調査研究本部主任研究員)
日 時: 平成25年7月12日(金)14:00〜16:00
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