澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -418-
原因不明の肺炎が発生した中国武漢市

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政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司

 昨2019年12月30日、湖北省武漢市衛生当局は、同市内にある華南海鮮市場から原因不明の肺炎(ここでは、以下「武漢肺炎」と呼ぶ)が発生したと公表した。同市場は武漢市中心部、江漢区に位置し、漢口駅からわずか1.3キロメートルの距離にある。結局、華南海鮮市場は今年元旦から閉鎖されている。
 「武漢肺炎」は、2002年から03年にかけて、東アジアを騒がしたSARS(Severe acute respiratory syndrome)、あるいは炭疽病や肺ペストに似た症状だという。
 ちなみに、SARSとは重症急性呼吸器症候群のことで、SARSコロナウイルスで引き起こされるウイルス性呼吸器感染症である。一般には、高熱を出し、呼吸が困難になる。最悪の場合、死に至る。
 今回、昨年「武漢肺炎」を発症した27人(主に市場関係者)全員が、武漢市金銀潭病院へ隔離された。現在、家族による罹患者への見舞いも禁止されている。
 実は、同病院では1週間の入院で、費用が4.3万元(約67万円)から5万元(約78万円)かかると言う。だが、1週間で快復できれば良いが、もしできなければ日本円でおよそ100万円以上になる。庶民には高い医療費となるだろう。
 年明け1月5日、武漢市衛生当局は、症例が 59人にのぼると発表した。その中で重篤なのは7人である。また、1月6日現在、163人が経過観察を受けているという。
 周知の如く、中国当局は、しばしば正確な統計数字を発表しない傾向がある。今回の「武漢肺炎」は、昨年12月12日、すでに発生していた。それにもかかわらず、武漢衛生当局は年末まで公表を控えている。
 一方、同市当局は、この肺炎に関しネットでデマを流したという理由で、8人を逮捕した。中国の場合、共産党に都合が悪い事実を指摘すると、逮捕・拘束される。
 したがって、共産党が発表したように、その8人が本当にデマを流したのか、それとも、彼らが同党に都合の悪い真実を暴露したのか、知る由もない。
 さて、なぜ同市場で、「武漢肺炎」が発症したのだろうか。実際、同市場では、家畜、犬、羊等も売買されていた。そこでは、動物を殺して売られていたのである。ひょっとして、これが原因不明の肺炎と関係があるのかもしれない。
 他方、華南海鮮市場が不衛生であった公算がある。もし、同市が衛生面に問題がなければ、「武漢肺炎」は発生しなかったのではないか。市場内で、殺された動物の内臓が無造作に廃棄されていれば、不衛生極まりない。
 問題は、「武漢肺炎」が人から人へ感染するか否かだろう。現時点では、その可能性を完全には否定できない。
 事実、武漢を訪問した香港人(華南海鮮市場へ行った形跡がない)が「武漢肺炎」に罹患している。
 昨年12月31日、香港では武漢帰りの3人に「武漢肺炎」が疑われた。翌1月5日、香港では、15人ないしは16人、その肺炎の罹患が疑われている。たった5日間で、当初の5倍に増えた。
 そこで、信頼できる香港での症例から、武漢の状況を推測してみたい。仮に、基数(3人)×5日=15人という式が成り立つとしよう。毎日、同じペースで罹患者数(経過観察者を含む)が増大するという大雑把な“仮説”である。
 武漢市では、昨年12月12日に「武漢肺炎」が発生し、翌1月6日の時点で、163人の罹患が疑われている。その間、25日である。
 基数×25日=163人ならば、この基数は6.52人(6人~7人)となるだろう。「武漢肺炎」の発症地としては、その数字があまりにも小さいのではないか。おそらく武漢衛生当局が、その罹患数を故意に少なく発表している公算が大きい。
 また、不思議なのは、今回、全く死亡者が報告されていない点である。これほどの原因不明のパンデミックで、「武漢肺炎」に罹患した人達が、1人も死んでいないとは考えづらい。武漢当局が、情報を隠蔽している可能性も捨て切れないだろう。
 ところで、マカオと武漢の間には、飛行機での往来がある。そこで、マカオ側は、武漢発航空機の場合、到着した乗客に熱がないか、検疫所でチェックしている。マカオ当局は、SARS流行当時、各国で行われた対策と同様の体制を採った(ちなみに、シンガポールも同様の措置を採っている)。
 かつて、2002年11月、中国広東省でSARSが発生した。翌2003年、香港や広東省を中心に、SARSが拡大している。WHO(世界保健機構)の発表によれば、世界で8096人が感染し、37ヵ国で774人が死亡した。
 この時、北京政府は、WHOにすぐに報告をしなかった。そのため、事態が悪化し、台湾や東南アジアまでSARSは拡大している。
 今後、「武漢肺炎」が中国国内に蔓延したら、習近平主席は更に共産党内で窮地に陥るだろう。やはり、年号の末尾に9が付く年は、中国にとっては鬼門だったのである。

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