WHOを信用して大丈夫か

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政策提言委員・元参議院議員 筆坂秀世

 発生源国となった中国を中心に、新型コロナウイルスの感染拡大と死者の増加が止まるところを知らない。中国での実際の感染者数は、数十万という指摘もある。すでに世界20数ヵ国に広がっている。
 ところがWHO(世界保健機関)は、1月23日の緊急会合で「国際的に懸念される公衆衛生の緊急事態」宣言を「中国国外での人から人への感染が確認されておらず時期尚早」だとして見送った。なぜこんな判断になったのか。30日付の仏紙ルモンドによれば、22日、23日と行なわれた緊急会合には、中国代表がオブザーバーとして参加して「宣言は問題外」と圧力をかけたからだという。
 だがその直後から日本やベトナムで人から人への感染が確認された。そのためWHOは30日に緊急会合を開き、ようやく「緊急事態」を宣言した。だがそれでもテドロス事務局長は、「人の移動や貿易の制限を勧めるものではない」と語ったのである。
 そればかりか、「中国政府は感染拡大阻止に並外れた措置を取った」「中国政府の努力がなければ、国外感染はもっと増え、死者も出ていたかもしれない」「中国は感染封じ込めで新たな基準を作った」などと中国を絶賛し続けた。テドロス氏は、中国国内で増え続ける感染者と死者の現実をどう説明するのか。
 テドロス氏はエチオピア出身で同国の保健相や外相を歴任してきた。エチオピアは、鉄道や電力などのインフラ事業で中国から巨額の投資を受け、対中債務の利子を帳消しにしてもらうという深い関係にある。WHO事務局長就任も中国が後押しをしたと指摘されており、就任時からその中立性が疑われていた。
 テドロス氏は、1月28日に北京を訪れ習近平国家主席と会談した。テレビでもこの場面が放映されたが、愛想笑いを浮かべ、習氏の発言を神妙に聞く姿には、世界の公衆衛生に責任を持つ人間としての矜恃を微塵も感じることは出来なかった。そもそも行くなら武漢にこそ行くべきだろう。
 こんな人物にWHOの事務局長を務める資格はない。更迭すべきである。
 感染拡大を防ぐには、渡航制限や交易制限が必要なことは素人でも分かることだ。現に日本での最初の感染者も、武漢からの観光客を乗せたバスの運転手である。アメリカなどは、中国全土を対象に入国禁止措置をとっている。日本の場合には、湖北省に限定しているが、湖北省以外にも感染は拡大しており対象を中国全土に拡大すべきである。
 感染がここまで拡大したのは、中国共産党による一党支配体制も深く関わっている。上意下達の共産党政権の下では、失敗すれば左遷や更迭、投獄などが待ち構えている。今回も武漢市の対応の遅れが感染を拡大させた。保身のためである。習近平氏が3日の最高指導部会議で「一連の対応で至らない部分が明るみに出た」と述べたことが、誤りを認めたと報道されたが正確ではない。実際には、党内への説教であり、地方政府の幹部に対する大量処分である。習氏と共産党の“保身”ということだ。