澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -429-
「新型肺炎」に対する習政権と安倍政権

.

政策提言委員・アジア太平洋交流学会会長 澁谷 司

 今年(2020年)2月24日、中国共産党は例年3月5日から始まる全国人民代表大会を正式に延期すると発表した。異例である。
 連日、報道されているように、中国武漢市で発生した「新型コロナウイルス」(以下「新型肺炎」)は、猖獗を極めている。とりわけ武漢市を中心にした湖北省の惨状は、筆舌に尽くし難い。同省では、病院はもとより、軍や警察、刑務所の中にも「新型肺炎」が蔓延しているという。
 実は、湖北省を中心に、河南省・湖南省・広東省・浙江省では「新型肺炎」は拡大の一途を辿る。ちなみに、2月24日、武漢市は一部封鎖解除を発表したが、すぐに撤回している。
 一方で、北京政府は、目下、景気減速の苦境に陥っているため、何とか工場や会社を再開したい。
 けれども、各地が封鎖され、原則、人の移動が禁じられているので、工場や会社に人が集まらない。ましてや、工場や会社に社員が戻って来ても、お互い「新型肺炎」をうつす危険がある。もしそうなれば、その工場や会社は、しばらく稼働できなくなるだろう。
 在宅でテレワークが可能ならば良いが、工場ではそういう訳にはいかない。現在、習政権は、このジレンマに悩まされている。
 さて、我が国では、毎日、テレビで感染症の専門家と称する人々が「新型肺炎」について様々な解説を行っている。
 今回、ごく一部の専門家は「新型肺炎」について危険だと早くから警鐘を鳴らしていた。だが、中国の状況を知らない多くの専門家は「新型肺炎」について通常のウイルス程度と高を括っていたのである。
 実際には、感染者が無症状で、潜伏期間の長い厄介なウイルスだった。また、一度罹患しても、抗体ができにくく、二度目感染した際、抗原抗体反応を起こして臓器不全に陥るという。
 また、日本のマスメディアは、横浜港に停泊している大型クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」号の状況について詳細を放映し、色々な解説を加えてきた。
 ところが、テレビ局は、なぜか初め視聴者に対し、同号は英国船籍であり、運営は米国が行っている事をほとんど伝えなかった。日本政府には、同客船に対処する義務はなく、あくまでも“善意”で対応している点を指摘しなかったのである。
 この点について、安倍政権は懸命対処して来たとある程度評価できるかもしれない。
 ところが、一方では、日本政府は致命的なミスを犯している。
 2月24日、我が国で「新型肺炎」に関する第3回目の専門家会議が開かれた。そして、同会議は、今後、1~2週間が山場だ発表した。だが、本来、中国の惨状を見ていれば、すでに日本国内での市中感染は必至だとわかるのではないか。
 当然、一部の日本人から、中国人の訪日を一時的に全部シャットアウトせよという声が上がった。高須クリニックの院長、高須克弥氏と呉竹会会長の頭山興助氏(玄洋社の頭山満の孫)がネットで署名を集めたのである。しかし、高須氏によると、首相官邸はその署名受取りを拒んだという。
 仮に、日本政府があらゆる中国人の訪日をストップさせれば、「習主席訪日」を日本側から断った事になるからだろう。
 昨年、安倍政権は「習主席訪日」を決めた。そのため、日本側から「習主席訪日」を中国側に言い出せない。そのため、中国共産党から主席訪日を断って来るのを待っている。
 原則論で言えば、国家間の信義を守るのは大切かもしれない。しかし、現在、我が国は危機的状況にある。今でも(湖北省と浙江省から来る人々を除き)「新型肺炎」に感染した中国人をほぼ無制限に国内へ招き入れている。これでは、次から次へと「新型肺炎」罹患者が我が国にやって来るだろう。日本が中国同様、未曾有のパンデミックを引き起こす公算が大きい。
 安倍政権は「習主席訪日」が日本国民の生命よりも大切なのだろうか。また、日中間のビジネスが日本人の命より重要なのか。本来、政府は、国民の生命と財産を守る必要があるのではないだろうか。
 今回、韓国の文在寅政権は、日本と同じように、4月に習近平主席に訪韓予定だったせいか、中国人をシャットアウトしなかった。対応が中途半端だったため、アッという間に感染者が続出している。特に、大邱市では新興宗教団体「新天地イエス教会」を中心に感染が拡大した。同市が武漢市と同じ状況に陥るのではないかという声さえ出始めている。
 一方、台湾政府の「新型肺炎」に対する対応は、「アフリカ豚コレラ」の時と同様、高く評価できる。蔡英文政権は、中国人を完全に入国拒否した。そのため、ほとんど島内には感染が拡がっていない。SARSの際、台湾は死者73人も出したが、今度はその時の教訓が活かされているのだろう。