「中華思想を侮ってはならない」
―日米同盟の堅持と中国封じ込めが日本の使命―

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会長・政治評論家 屋山太郎

 トランプ氏が米国大統領になって以来の対中外交は実に見事である。いま民主党が党内論議を繰り広げている論戦の中に「中国」は存在しない。民主党に外交論争がなかったからこそ、オバマ時代に中国の世界的台頭を許したと言える。
 オバマ氏に限らずアメリカ人は中国を“普通の国”と認識してきた。WTO(世界貿易機関)に入れてやれば、周囲の国と仲良くし、民主主義化していくと思い込んだのである。ところが中国のやり方はまさに“自己中心主義”だった。日本に帰化した石平氏は、中国人(元は漢人)の考え方は「宇宙を収める天子は中国人」だと書いている。周囲の民族は天子(中国人)の徳に感化されて臣下となるべきものだと考える。したがって、①対等の交際は許さない ②中国に朝貢(貿易)するのは当然 ③国境の存在は許さない――というのが中華思想の3原則だという。我々はウイグルやチベットの独立を守れとか、文化的侵略は許さないという別の近代的な常識を持っている。しかし中国は2千年以上前から、中華思想こそ正しいと信じている。国際裁判所の文書などは紙くずだ。これに対して日本は日本化した仏教を国教の中心として独自の文明を開化した。
 トランプ氏が2千年来の中国の成り立ちや素性まで分かって、対中政策を立てたとは思わないが、結果として正しかった。タダで盗まれた知的財産権は高関税をかけて直接取り返す。西側二番というファーウェイが作る携帯電話や家庭用デバイスも結局は盗んだもの。米国は「販売は許さない」と怒っている。中国商品の多くは莫大な政府補助金をつぎ込んで、不公正な競争でのし上がったもの。この種の商品は今後自由に販売させないと主張している。この不当な策で中国は儲け放題、その金を軍事費につぎ込んだ。米側の軍事力は全体として優位にあるが、トランプ氏は潜水艦などに低出力小型核ミサイルを配備すると宣言した。また宇宙軍の創設も打ち出した。
 「中国製造2025」という標語は、中国は2025年には製造業で世界一になる意志を表明したものである。いま中国の天子は共産党が握っている。習主席は任期を外されており、あと10年も20年も主席であり続けるかもしれない。中国が周辺をすべて征服するという意志は永久に不変だ。
 日本の外交方針について、米国が日本を必要としなくなった時のために「中国と仲良くしておいた方がいい」という論者がいる。自由と民主主義という同じ価値観を持つ日米が袂を分かつ動機があるのか。日中が価値を同じくし、同盟に至ると思うのか。中華思想からして、日中が対等に組める瞬間などあり得ない。日本の歴史上の大失敗は、中国本土に足を踏み入れ、海洋国家としての本分を忘れ、中華思想を軽く見たことに尽きる。日本の使命は日米同盟を基礎に香港、台湾、ウイグルを守り、中国を固く封じ込めることだ。
(令和2年2月26日付静岡新聞『論壇』より転載)