「中国4000年の歴史から抜け落ちている道徳」
―五族協和のひずみは続く―

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会長・政治評論家 屋山太郎

 中国人がまたやってくれた。2002年から3年にかけて大流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)は世界中に迷惑をかけた。まともな国なら再発防止策を確立していてしかるべきだが、武漢華南海鮮卸市場ではコウモリ、ヘビ、サソリなど野生動物が陳列してあるという。SARS 事件のあと中国政府は野生動物を食用することを禁止したはずだが、例外規定を設けて、金持ちは自在に買うことができたらしい。SARSの犯人はジャコウネコであることが判明したが、今度の原因はコウモリらしいという。この2回の大災害を起こしても、中国人は反省せず、いずれ3回目を起こすだろう。
 今回のコロナウイルスが発生したのは昨年の11月頃と言われている。中国誌「財新」(電子版)によると広東省広州の遺伝子研究機関が12月下旬に、武漢の患者から採取した検体の遺伝子情報を解析したところSARSに似たウイルスを検出した。他の複数の民間、公的機関も1月2日頃までに解析を終えた。しかし当局は公表を禁じ、9日になって「検出した」旨を発表した。この警告の遅れによって「人から人へ」の感染を警告できず被害は拡大した。
 中国政府の致命的欠陥は情報の発表の自由を許さないことである。何故許さないか。自分だけが知り得た情報を利用して、責任逃れの道を探りたいからだ。
 石平氏の近刊で「中国人の善と悪はなぜさかさまか」を読んで、中国という国の本質が理解できた。何故あの国だけは4000年余の歴史を誇るのに、道徳が積み重なってこなかったか。一回も西欧的民主主義国を目指したことがないのは何故か。
 古い日本人は中国史といえば儒教、道教、仏教や孔子、孟子の存在を思い浮かべる。西暦以前の中国は殷、周の神話の時代を経て紀元前221年に秦の始皇帝が建国する。統一国家を建設したのは隋が589年、唐が618年、宋が979年、元が1279年。そのあと明、清と続く。同じ民族が政権交代を重ねて2000年経ったわけではない。漢族、満州族、蒙古族、ウイグル族、チベット族があの広い大陸で共存し、いろいろな民族が政権をとった。現在、漢族がウイグルとチベットを呑み込もうとしているが、中国民族という一種類の人種がいるわけではない。
 5族が一緒に暮らしているわけだが、石平氏によると共通の「宗族」と「一族イズム」の観念を持つという。宗族というのは宗教ではない。親、子、親族の強い一体感である。一族の一人が偉い位に就くと全員に利益を分配する。隋の時代に始まった官僚試験の「科挙」を擁した一族は儲け放題に儲ける。国のためとか公の意識などは恐ろしいほど無い。日本の儒教には公、忠の観念が入っているが、宗族の意識には「私」しかない。それが4000年続き、今後も続こうとしているのが中国である。

(令和2年3月4日付静岡新聞『論壇』より転載)

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