新型コロナウィルスの感染拡大に備え、危機管理体制の構築と強靭な国家作りを

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政策提言委員・元公安調査庁金沢公安調査事務所長 藤谷昌敏

 現在の新型コロナウィルスによる世界の感染者数と死亡者数(4月11日時点)は、世界全体で感染者数1,684,833人、死亡者数102,136人であり、国別では、米国感染者数499,796人、死亡者数18,580人、スペイン感染者数158,273人、死亡者数160,81人、イタリア感染者数147,577人、死亡者数16,849人、ドイツ感染者数122,215人、死亡者数2,767人、フランス感染者数112,950人、死亡者数13,197人、中華人民共和国感染者数81,907人、死亡者数3,336人、そして日本は、感染者数5,347人、死亡者数88人である。
 この中で目立つのは日本が感染者数、死亡者数ともに非常に少ないことである。
 
 日本においては、なぜ、新型コロナウィルスの感染者と死亡者が少ないのか。最近の医療関係者の話をまとめると概ね次のような理由となる。
 
・手洗いが日常的に習慣化している
・握手、ハグするなどの習慣がない
・マスクをする習慣がある
・病床数が人口1,000人当たり13.1とトップクラス
・感染経路を調べクラスター感染を潰す方式が有効
・BCG予防接種が重篤化率を下げるのに効果的
・CT、MRIの普及率が高い
 
 日本人としては、しばし安心とも言えるが、4月に入ると日本においても感染者の拡大が急速に進み、死亡率の上昇も懸念されるなど、余談を許さない状況となっている。
 
 こうした中、重篤者に対する有効な治療法として、人工呼吸器、人工肺(ECMO)が注目を浴びている。日本においては、2020年3月時点で国内の人工呼吸器は2万2,254台、1万3,437台が待機中であり、ECMOは1,400台程度が国内で使われている。(2020年4月6日付け東京新聞など)
 ちなみにECMOは、「体外式膜型人工肺」とも言われ、呼吸不全の重篤者に対して行われる生命維持装置である。体内の血液を抜き出し、人工肺を通して二酸化炭素の除去と酸素を付加して再び体内に戻すことで、本来の肺を使わない生命維持が可能だ。ただし、ECMOは、1台6,000万円(テルモ社の例)と高額であるのに加え、ECMOスペシャリストと言われる専門家グループが必要であり、人員の確保がネックとなる。
 米国は3月18日、トランプ大統領が「私は戦時下の大統領」と述べ、「国防生産法」を発動することを宣言した。同法によって、国家の危機的状況において、民間企業に軍需用物品の増産を要請することができ、新型コロナウィルス対策のためのマスク、人工呼吸器などの医療装備の生産拡大が可能となった。米国の緊急生産体制について思い起こされることは、第二次世界大戦時の戦時生産体制のすごさである。フォードなどの自動車メーカーが数週間で航空機や戦車の大量生産体制に移行するという、当時の日本では考えられない迅速な巨大産業の転換を成し遂げた。しかも、一定の品質を維持しながら生産管理体制を短期間で整備するというのは並大抵ではない。どんな優秀な設計者がいても、それを活かす技術者や工場がなければ、優秀な武器は生産できない。当時の日本に決定的に欠けていたのは、大量生産のノウハウ、精密機械の製造に欠かせない工作機械、そして熟練工員だった。
 
 さらに米国は、4月7日、トランプ大統領が人工呼吸器の備蓄は8,675台あり、数週間内に11万台が追加されると発表した。米国は死者1万人以上、感染者36万7千人以上であるが、問題を一気に解消するために国力を挙げて取り組み出したのだ。既に米国では、トランプ大統領の指示により、フォード、GM、テスラなどの自動車関連メーカーが人工呼吸器の大量生産に取り掛かっている。今、再び、米国という巨大な軍事産業が動き出したのである。
 
 日本では、安倍総理が4月6日、新型コロナウィルス感染症対策本部において、重症者の増加に対応するため人工呼吸器を1万5千台以上確保するとの方針を発表した。これを受けてテルモなどが緊急の増産体制を整えているが、これまでは基本的にスイスなど外国からの輸入に頼ってきた。通常、異業種やベンチャー企業が新規参入するためには、「医療品医療機器法」による審査が必要であり、最低でも許可まで1年ほどかかると言われている。今回、経済産業省の要請により、自動車メーカーの中には、人工呼吸器などの生産体制を整える準備を始めた企業もあるが、欧米の自動車メーカーが着々と生産体制を固める中、あまりにも歩みが遅い。欧米などの先進国が自国の医療崩壊を回避するためにマスクや人工呼吸器などの医療資源の国外流出を止めている現状を踏まえ、日本政府は、各自動車メーカーや参入を希望する企業に対し、法規制の緩和や経済的補償を条件として、早急な生産体制を作ることを指示するべきである。
 
 今回の新型コロナウィルスの感染拡大は、国家の存亡に関わる重大事であり、憲法上保障されている私権や企業の経済活動を制限することもやむを得ない。今後、新型コロナウィルスが終息したとしても、地震、台風などの自然災害、新たなる感染症の発生の恐れ、中国の影響力拡大など、国の浮沈をかけて日本が対峙しなければならない問題が待ち構えている。日本政府には、是非とも強力な危機管理体制と法体系を構築し、国民の安心、安全を守れる強靭な国家作りを望みたい。