武漢ウイルスの発生以降も、中国による東・南シナ海での動きは衰えるどころか活発さを増している。今回は、コロナ危機を踏まえた中国の海洋進出について、考えていきたい。
コロナでも止まらない中国の海洋進出
コロナウイルスの発生以降も、中国の海洋進出は止まる所を知らない。海上保安庁のホームページによると、尖閣諸島周辺では、中国公船が毎日のように接続水域への侵入を繰り返している。4月11日に空母「遼寧」など6隻の艦艇が宮古海峡を通過し、12日には台湾近海で軍事演習を行った。その後、遼寧は台湾海峡とバシー海峡を通過して、南シナ海に移動し、13日に演習を行っている。南シナ海では、4月3日に中国海警の船がベトナムの漁船に衝突し、沈没させている。
軍事的なアプローチ以外でも、中国は着々と海洋進出を進めている。中国政府は4月18日に南シナ海のスプラトリー諸島とパラセル諸島にそれぞれ南沙区と西沙区という行政区を設置すると発表した。中国政府は行政区を設けることで、実効支配を強めている。
中国の海洋進出に対抗する動き
こうした中国の動きに対して、ベトナムやフィリピンといった周辺諸国は反発を強めている。アメリカも強襲揚陸艦「アメリカ」と巡洋艦「バンカーヒル」を南シナ海に派遣し、その後駆逐艦「バリー」を追加派遣した。オーストラリアもフリゲート艦「HMASパラマッタ」を派遣している。これらの艦艇は南シナ海で共同演習を行い、中国の動きを牽制している。
アメリカを巡っては、南シナ海に派遣されていた空母「セオドア・ルーズベルト」艦内でコロナウイルス感染者が確認され、グアムに寄港している。横須賀を母港とする「ロナルド・レーガン」や、シアトル郊外のプレマートンで出港準備中だった「カールビンソン」や「ニミッツ」でも感染者が確認され、第3艦隊、第7艦隊の即応体制への懸念が示されていた。こうした中で、アメリカは即応体制に対する懸念を払しょくすると共に、中国に対しても、隙を与えることがないように抑止力の維持に努めている。
コロナによって激化する米中対立
南シナ海情勢以外でも、アメリカと中国の対立は激化している。コロナウイルスを巡って、アメリカは中国の責任を追及している。そこでは、WHOなど、予てから中国の影響力拡大が指摘されていた国際機関なども含まれており、ここ数年の中国の動きに対して、遅まきながら、歯止めをかけようとしている意図が見える。
コロナ後の世界について議論する人々も増えている。米中対立について言えば、対立はさらに激化するとの予測が成り立つ。アメリカ政府は、コロナウイルスの感染拡大に対する中国とWHOの責任を糾弾している。その背景には、国際機関自体の改革というだけでなく、中国の国際機関への関与に歯止めをかけるという意図がある。また、米国国内では、中国に対する集団訴訟が起こされており、米国民の中でも反中ムードが盛り上がっている。アメリカは11月に大統領選挙を控えており、対中姿勢に変化が現れる兆しはない。
日本の対応
中国の海洋進出は日本にとっても他人事ではない。中国は東シナ海と南シナ海を区別することなく、進出を強めている。実際、空母「遼寧」は東シナ海から南シナ海へと移動している。
日本は中国の海洋進出にどのように対応すべきだろうか。ここでは当事国と第3国の双方からのアプローチが必要となろう。
東シナ海においては、脅威を受ける当事国として、中国に対する抑止を強める必要がある。この点では、海上保安庁や自衛隊が、東シナ海における中国の活動を警戒し、隙のない体制を取る必要があろう。一見地味なようだが、中国の浸透を防ぐにはこれしかない。
他方、第3国の立場を活用する必要がある。東シナ海と南シナ海における中国の活動は連動しており、南シナ海での抑止力を高めることが東シナ海での中国の浸透を牽制することが出来る。2019年9月に南シナ海でアメリカはASEANと初の海上演習を行った。2020年4月2日には、アンダマン海で日米が共同演習を行った。こうした取り組みは、東南アジアに対して、コミットメントを行う意思の表明でもある。引き続き、こうした取り組みを続けることで、この地域へのコミットメントを示す必要があろう。
近年、中国は実効支配を高めるだけでなく、南シナ海における地域大国としての立場を強めている。日本は、中国を別とすればこの地域で有数の軍事力を保持し、災害救援など多国間協力の実績を積んでいる国でもある。航行の自由作戦など、表立って中国に圧力をかけることが難しいのであれば、日本の得意な能力構築や災害救援という立場から共同演習を各国と行うことも出来よう。実際、自衛隊はコブラゴールドなどASEAN諸国との共同演習に参加している。こうした活動を促進していくだけでなく、日本が共同演習を主催し、各国との連携を強化することが、地域におけるプレゼンスを高めることに繋がる。
中国の海洋進出は、日本にとっても無視することの出来ない問題だ、コロナ後を見据えて動く必要があろう。コロナだからと言って立ち止まってはいられないのである。