アメリカ海軍太平洋艦隊の潜水艦が多数、東シナ海、南シナ海など西太平洋海域で活動中であることが5月下旬、明らかにされた。その任務はアメリカ国防総省の「自由で開かれたインド太平洋」構想に沿って中国への抑止を誇示することにあるのだという。
米軍全体としては新型コロナウイルスの感染が海軍艦艇の一部乗組員にも及び、艦隊の機能低下が懸念されることに対応しての潜水艦隊出動の公表のようである。
この潜水艦群の動きは太平洋艦隊司令部のあるハワイ州ホノルルの新聞が同司令部からの非公式な通告を受けて5月下旬に報道した。アメリカ海軍は通常は潜水艦の動向を具体的には明らかにしていない。だが今回は太平洋艦隊所属の潜水艦の少なくとも7隻が西太平洋に出動中であることが同司令部から明らかにされた。
その任務は「自由で開かれたインド太平洋」構想に沿っての「有事対応作戦」とされている。この構想の主眼は中国のインド太平洋での軍事膨張を抑えることだとされるため、今回の潜水艦出動も中国が覇権を目指す南シナ海や東シナ海での展開が主目的とみられる。
同報道によると、太平洋艦隊所属でグアム島基地を拠点とする攻撃型潜水艦(SSN)4隻をはじめ、サンディエゴ基地、ハワイ基地を拠点とする戦略ミサイル原子力潜水艦(SSBN)など少なくとも合計7隻の潜水艦が5月下旬の時点で西太平洋に展開して、臨戦態勢の航海や訓練を実施している。
その主要目的は中国の軍事膨張への抑止能力の健在を明示するとともに、太平洋艦隊所属の空母「セオドア・ルーズベルト」の乗組員に新型コロナウイルス感染者が多数、発生して、グアム島基地で活動停止となったことから生まれる太平洋艦隊の有事即応能力への疑問を払拭することにあるという。
アメリカ海軍当局もこれら潜水艦が西太平洋海域で臨戦態勢を保ち、戦闘訓練を続けていると発表した。
太平洋艦隊の潜水艦群司令官のブレイク・コンバース少将は「わが潜水艦群はいかなる危機や紛争にも即時に対応し、柔軟に動いて、戦闘ができる態勢にある。国際法に基づき、アメリカとその同盟諸国の基本利益を守るために活動することが任務なのだ」と語ったという。
太平洋艦隊の潜水艦の機能を強調するこうした動きは新型コロナウイルスの感染がアメリカ海軍にまで及び、空母「セオドア・ルーズベルト」の乗組員の半数ほどの感染だけでなく、他の艦艇にも同様の感染が広がることから起きるアメリカ海軍全体の危機対応能力への懐疑を抑えることが主要目的だと観測されている。とくに西太平洋海域でアメリカ側がいま国防上の明白な脅威とみなす中国軍への抑止効果を込めるというわけだ。