大学や研究所経由の軍民両用技術流出対策を急げ

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政策提言委員・(株)アシスト代表取締役 平井宏治

 中国では、大学が兵器の研究開発で重要な役割を担う。中国共産党人民解放軍(以下、中国軍)と直接、軍事技術開発契約を締結して、機密度の高い兵器などの開発や製造の一端を担うのが、北京航空航天大学、ハルビン工業大学、北京理工大学、ハルビン工程大学、南京航空航天大学、南京理工大学、西北工業大学だ。これら7校は国防七校と呼ばれ、国務院に属する工業・情報化部の国防科技工業局により直接管理されている。
 国防七校の学生が、米国や日本の大学に留学をしている。また、中国軍の軍関係者も留学生になりすまして米国や日本の大学で研究をしている。彼らが、米国由来や日本由来の軍民両用技術を帰国後に軍事転用している疑惑が明らかになり、米国は本格的に取締に乗り出している。
 
大学経由の機微技術流出阻止に動く米国
 米国で、昨年12月、2020年度国防権限法が成立し、学会経由の機微技術流出対策が強化された。
 ・軍事研究に関係する組織や軍事研究に深く関わる大学
 ・軍事研究のための専門家の招聘、軍事研究に関わる経歴の隠蔽への関与で知られる組織
 ・軍事的技術の無形技術移転に著しいリスクをもたらす組織
 同法では、これらの軍・諜報機関の指示下にある又は不適切な技術移転の深刻なリスクのある中露等の大学・研究機関のリストの作成・更新義務が規定され、監視の目が強化された。
 さらに、今年になって、米国では、①エネルギー省が中露等の外国政府の人材募集計画への参加を禁止、②国立衛生研究所(NIH)、エネルギー省が、外国からの資金提供開示義務付け、③外国からの資金提供や人材募集参加の不開示等に対する処分、刑事的立件――が行われている。FBIはこの1年間、中国の学者の動きを注視し、彼らが米国の軍民両用技術漏洩の経路の一つだという証拠を掴み、逮捕を始めた。
 一例をあげる。9月10日、大紀元は「8月に米国で逮捕された中国国防科技大学の学生、関磊容疑者はカリフォルニア大学ロサンゼルス校の数学系で、中国軍が進行中の軍事応用研究に関連する“最適化アルゴリズムとその機械学習への応用”を研究していた。中国国防大で関磊容疑者を指導した教授は盧錫城中将。かつて、中国軍の参謀本部、総装備部、空軍と軍事気象予報および核技術コンピュータシステムの開発に携わった人物だ。起訴状によると、中国国防大には、米国製部品の大量購入、米国技術の取得、核爆発アプリケーションを備えたスーパーコンピュータの開発などの疑いがかけられている。米国商務省の核不拡散条項の事業体リストに中国国防大は記載されている」と報じた。
 9月9日、ロイター通信は「国務省は9月8日までに、大統領布告に該当し、ビザを持つ資格がないと判明した中国人の1,000件以上のビザを取り消した。これは、トランプ大統領が5月29日、米国の重要な技術や知的財産を取得する中国政府の活動に使われている特定の中国人の学生と研究者の入国を制限すると布告し、国務省は布告を6月1日から適用したことによる。国務省の報道官は、同省はビザ取り消しに関して広範な権限を有し、ビザの資格がないとの情報が出れば、その権限を行使すると述べている」と報じた。
 5月、米国商務省産業安全保障局(BIS)は中国の政府系団体や民間企業など24組織体を輸出管理規則に基づくエンティティ・リスト(EL)に追加すると発表した。制裁対象には、国防七校のハルビン工業大学とハルビン工程大学が含まれている。
 
狙われる日本の大学
 日本の大学や研究機関が扱う技術には軍民両用技術が含まれる。しかし、大学と研究機関は、中国の大学と共同研究した技術が中国で軍事転用され、日本の安全保障を脅かす兵器に利用されていることへの警戒心が弱い。
 経済産業省は、「外国ユーザーリスト」を発行している。このリストには、大量破壊兵器等の開発などへの関与が懸念される企業・組織が掲載されている。国防七校のうち北京航空航天大学、ハルビン工業大学、西北工業大学の名前が含まれている。
 自民党の長尾敬衆議院議員が、文部科学省に問い合わせたところ、2017年度は、国防七校から172人の中国人留学生が来日する一方、日本から国防七校への留学生は80人だったことが明らかになった。外国ユーザーリストで名指しされたハルビン工業大学からの留学生は75人で、国防七校からの留学生全体の四割以上を占める。北京航空航天大学からも27人の留学生を受け入れている。
 2019年5月現在の中国人留学生の人数は、124,436人であり、外国人留学生の総数312,214人の実に4割を占める。(独立行政法人日本学生支援機構調べ)
 オーストラリア戦略政策研究所は「The China Defense Universities Tracker」の中で、「2007年から2017年の10年間に、人民解放軍は、2,500人以上の科学者を海外の大学に派遣した。この一部は、民間人になりすました」と述べている。
 外国人留学生の一部に、中国軍関係者が軍民両用技術を取得するために留学生になりすまして大学や研究所に入り込んでいる可能性は排除できない。
 国防七校の性格から、日本の大学と研究機関を活用して、軍民両用技術の研究を行っている可能性が高いだろう。大学間の提携は大学や研究者が当事者であるが、中国の軍事兵器開発の中核である国防七校が当事者となれば、安全保障問題だ。日本の高等教育機関が中国による軍民両用技術不正移転の抜け穴になっていることは、同盟国である米国の不信を招く。
 
規制の緩い日本が軍民両用技術流出の抜け穴に
 大学と研究機関は、先端技術の開発などや海外との交流を行う。日本の大学と研究機関発の技術が、大量破壊兵器等やテロ活動などに転用されたり、懸念国の軍拡に利用されたりすることを防止することは、国家の責任である。
 外国為替及び外国貿易法(外為法)は、企業だけでなく大学や研究機関に輸出管理体制を整備することを義務付けている。
 2015年には、不正競争防止法が改正され、他国並みの規制強化が行われた。2016年には、「大学における秘密情報の保護ハンドブック」も公表された。規制技術の不正移転を防止するために同法の適用を徹底することも必要だ。
 経済産業省作成の「安全保障貿易管理と大学・研究機関における機微管理」によると、2019年6月時点で、安全保障貿易管理の内部規定を設けた大学と研究機関は、全体の45%にとどまっている。外為法違反に問われないようにするためにも、大学と研究機関に「輸出者等遵守基準」の徹底を図ることが必要だ。制度があっても、厳格に運用されなければ、制度がないのと同じである。
 また、教授だけではなく、留学生を含む学生にも輸出者等遵守基準に関する説明を行い、関係者全員に対して外為法規制の周知徹底と問題意識の共有を図ることが重要だ。
 兵器やその材料、関連技術などが懸念国に渡れば、軍事バランスを危険な方向に変えてしまう。国際社会は、核や生物・化学兵器、ミサイルなど様々な分野で流出防止策を取り決めており、日本では外為法で規制されている。
 企業がこれを破れば、国内外から厳しい制裁措置を受ける。これに対し、企業と同様に軍民両用技術を扱う大学と研究機関の情報流出対策は企業に比べ大幅に出遅れており、巨大な「抜け穴」になっている。
 米国同様、日本にも中国軍関係者が留学生になりすまし、大学と研究機関に入り込み中国の軍事技術開発に日本由来の技術を持ち出していてもおかしくない。外為法違反があれば摘発し、これまで管理されてこなかった暗部にメスを入れることが必要だ。
 
軍民両用技術流出を防ぐ新たな管理体制構築を
 日本学術会議は2017年3月、「戦争を目的とする科学の研究は絶対にこれを行わない」とする昭和四十二年の同会議の方針を踏襲する「軍事的安全保障研究に関する声明」を決定した。日本の大学と研究機関は、自国の防衛技術の向上に協力しない。ところが、人民解放軍と関係の深い国防七大学から留学生を受け入れ、その上、もしかしたら日本由来の軍民両用技術を習得し、中国の軍備近代化に間接的に加担しているかもしれないという懸念に対して無防備だ。誰の目から見てもおかしい。
 例えば、日本に対する外国によるミサイル攻撃を防ぐための防衛ミサイル開発に協力しない日本の大学と研究機関が、日本を標的にする中国のミサイル開発に研究開発を通じて間接的に加担する。こんなことは許されない。仮に、留学生になりすました中国軍関係者を受け入れていれば、反国家行為であり、厳しく処罰されるべきだ。
 学術界は、外為法に定められた安全保障貿易管理を軽視し、大学と研究機関に適切な管理を徹底することを躊躇し、大学と研究機関にいる中国人留学生が、日本由来の軍民両用技術を外国で軍事転用することを見て見ぬふりをしてきたとの指摘に対し反論できるか。
 日中大学間の軍民両用技術研究が中国で軍事転用されるリスクを認識し、十分な管理を行ってきたとは思えない。
 国防七校出身や中国軍の軍人の留学を拒否できなければ、軍民両用技術が盗まれ留学生が帰国した後に軍事転用される可能性は常に存在する。
 留学制度を見直す際に、2018年に成立した中国の国家情報法も考慮すべきだ。同法七条は「国民と組織は、法に基づいて国の情報活動に協力し、国の情報活動の秘密を守らなければならず、国は、そのような国民及び組織を保護する」とし、情報活動への協力を義務付けている。
 文部科学省が、国家安全保障局経済班や財務省国際局、経済産業省、警察庁と都道府県警察の公安部門と連携し、留学生の身元確認を調査し、留学生として入国を許可・拒否できる仕組みを作ることが、自由民主主義陣営の一員として求められている。
 しかし、論文発表、学会発表、特許公開等で公知化された技術は規制対象外となる。近年の軍事活動は、智能化戦争に変わっているが、そこでの優位性に結びつく先端的研究成果が制限なく公知化されることにより不特定多数に共有される。
 基礎科学分野の研究活動も規制対象外だ。海外の大学や研究機関等との共同研究、留学生・研究者の受け入れ、研究資金の供与等を通じて、輸出管理対象となる以前に、懸念国やその企業等の関与下に(場合によっては独占的管理下に)置かれてしまうことがある。
 兵器の研究開発で重要な役割を担う国防七校との共同研究では、厳格な技術管理と軍事転用防止策が必要だ。
 大学・研究機関等から軍民両用技術の流出防止の方策は、輸出管理法である外為法では対応が難しい。輸出管理(技術移転)規制での立件が難しい中で、政府は新法を国会で成立させ、外為法で取り締まることが難しい穴を塞ぐことが必要だ。
 大学や研究機関から軍民両用技術が懸念国に流出していることは、西側諸国の安全保障だけでなく、日本国の安全保障にも悪影響を及ぼす問題だ。日本由来の軍民両用技術の流失防止策を早急に作り上げ実施することは喫緊の課題だ。
 この問題は、『月刊正論』10月号で詳しく記載した。ご高覧頂ければ幸いである。