菅首相の言葉に懸命さも、危機感も感じない

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政策提言委員・元参議院議員 筆坂秀世

 当初より危惧されていた通り、秋、冬を迎えても新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない。連日のように過去最多の感染者が発生している。重症者も最多を更新し続けている。
 だが菅政権からは、コロナ対策への懸命さや危機感が全く伝わってこない。そもそも、ほとんど記者会見もしておらず、やっても一方的にメモを読み上げるだけである。11月26日、「国民の皆さんには、ぜひともマスク着用、手洗い、3密の回避という基本的な対策に協力いただきたい。一緒になって感染拡大を何としても乗り越えていきたい」と呼びかけたが、目新しいことは何もない。今更聞かずとも分かっていることだけという空疎なものだった。記者の「なぜGo Toトラベルだけ触れないのか、理由を教えてくれませんか」という問いかけを無視して、逃げるように立ち去った。これでは国民に何も伝わらない。
 東京都の小池百合子知事が定例会見だけではなく、必要に応じて記者会見を行い、記者からの質問にも丁寧に回答しているのと大違いである。
 新型コロナウイルスは、経済も、暮らしも、健康も、あらゆる分野に大災厄をもたらしている。まさに未曾有の危機である。中でも医療機関は、大変な事態にある。この時に何のメッセージも出せないような首相など不要である。
 新型コロナ感染症対策分科会の尾身茂会長は、11月19日の段階で「状況は厳しくなりつつある。みんなこのままいくと危ないぞという危機感があった。今までのままでは(感染を)コントロールできない」と語っている。同氏は、27日の衆院厚生労働委員会でも、感染防止対策について「人々の個人の努力に頼るステージは過ぎた」と述べ、政府や自治体の対策を強化すべきだとの認識を表明した。
 この危機感を菅首相はどう受け止めているのか。
 感染症のほとんどの専門家が、Go Toトラベルを一旦中止すべきだと意見表明をしている。ところが菅首相は、「Go Toトラベルは延べ4,000万人の方が利用している。その中で現時点での感染者数は約180人だ」と言っている。この菅首相の言葉通りだとGo Toトラベルで旅行した方が感染リスクは下がるということになってしまう。勿論そんなことはあり得ない。誤ったメッセージである。
 『週刊文春』(12月3日号)によると、観光庁国際観光課の担当者は、「Go Toトラベルの感染者数は、宿泊施設等から報告を受けている範囲での数字です。感染状況全体を把握されているのは保健所だと思います」と述べているという。その保健所はと言えば、「基本的に、感染者がトラベルを利用したか否かは確認していない」という。
 そもそも4月の緊急事態宣言の際にも、不要不急の外出を控えるよう強く訴えたのは政府自身ではないか。だがGo Toトラベルは、どんどん遊びに行って下さい、大いに外出をして楽しんで下さい、というものだ。感染が拡大してくれば中止にするのは当然のことだ。