中国のコロナ隠蔽ネット大作戦

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顧問・麗澤大学特別教授 古森義久

 中国の武漢で新型コロナウイルス発生が確認されて、丁度1年が過ぎた。邪悪なウイルスの大感染は全世界に広まった。無数の老若男女が犠牲となった。
 中国政府は自国内で発生したこのコロナウイルス拡散にどう対応してきたのか。特にインターネット上ではどんな措置をとったのか。
 アメリカ側の民間の独立調査機関「プロパブリカ」が中国政府のコロナウイルスに対するインターネットでの統制の実態を詳しく調査して、ニューヨーク・タイムズと共同でその結果をまとめてこの12月中旬、公表した。その概要は12月19日付の同紙の記事で報道された。
 中国政府の内部文書数千点を入手して、その内容を点検するとともに、中国民間のインターネット関係者からの聴き取りをも加えたこの調査は、中国政府が新型コロナウイルスの発生をネット上でも如何に隠蔽し、虚偽の情報を拡散したかを詳しく明示していた。
 
 この調査結果はまず、最大の焦点を今年2月にコロナウイルスに感染して死亡した武漢市の医師の李文亮氏の動向についての中国内部のソーシャルメディアの政府統制に絞っていた。当時34歳の李医師は昨年12月はじめ、武漢市内の病院で勤務するうち、異様に感染性の高いウイルスの拡散と感染者の増大に気づき、インターネット上で警告を発した。
 しかし李医師はその発信を中国政府当局に非難され、武漢市警察に召喚され、尋問を受けて、「不当な発信」を糾弾され、懲罰処分を受けた。だが李医師の発信は全中国に広がり、1月中旬には習近平政権も「人から人に感染する新型コロナウイルス」の拡散を公式に認め、対策措置を公表した。
 結局、事態は李医師の警告どおりに動き、同医師は全中国のヒーローのように敬意を払われた。中国中央政府もその現実を認め、李医師の「功績」を消極的ながら賞賛するようになった。
 そんな時期の2月はじめ、李文亮医師は死んだのである。
 その際の中国政府のインターネット対策について「プロパブリカ」の調査報告は以下の骨子を伝えていた。
 
 ・中国政府は国内のインターネット統制のために新設した政府機関「国家インターネット情報弁公室」(CAC)を動員して、ソーシャルメディアでは「李医師の死の報知を最小限にする」「李医師を英雄扱いすることへの批判を述べる」ことなどを命令した。
 ・同弁公室は数千人の工作員を雇い、報酬を払って、李医師への賞賛を抑えるコメントを発信させた。またその際には「極端に愛国主義的な意見は自粛する」「李医師の個人への誹謗は避ける」などという詳細な指令を出した。
 ・同弁公室はソーシャルメディアに中国政府への非難や誹謗のメッセージがあれば、その発信源を探知して、発信者に懲罰を加える措置も頻繁にとっていた。そのためにも特別の要員を数千人単位で動員した。
 ・同弁公室は2020年3月12日に全国支部への特別指令を出して、各支部がその地域でのインターネットの内容を毎日、監視する作業を続け、政府の規範に違反する趣旨の書き込みがあれば、直ちにその「修正」と「矯正」の措置を取ることを命令した。
 
 以上のように伝えるこの報告書は、この種の考察の根拠について中国の政府機関CACがこの1年ほどの期間に出した合計3,200ほどの指令、同1,800ほどの覚書を入手して、その内容を精査した結果を総括したと付記していた。
 なおCACは中国共産党政権の中央政府にあたる国務院の直轄機関としてインターネット統制を目的に2014年に開設された。本部は浙江省の杭州市にあり、全国各省に支部がある。
 CACは今回のコロナウイルス発生直後から、ウイルス発生の事実自体を隠すこと、さらにこのウイルスが人間から人間には移らないこと、人間に感染しても深刻な病状は引き起こさないこと、という虚構の骨子に沿って、中国内部だけでなく国際的なインターネットの世界への介入、干渉を続けてきた。その詳細をも今回の「プロパブリカ」の報告書はその根拠となる中国語の原文の資料を提示しながら、伝えていた。
 その報告書は中国共産党政権が自らの非人道的、非民主主義的な言動を隠し、歪める際にインターネットをどのように利用するかを示す指針として有益だと言える。