「今こそ自由主義国家の団結を」
―中国のWTO、RCEP加盟の轍を二度と踏むな―

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会長・政治評論家 屋山太郎

 ジャック・アタリ氏と言えば欧州を代表する経済学者である。私の蒙を啓(ひら)いてくれた学者だ。産経新聞の大晦日号で、エドワード・ルトワック、細谷雄一慶大教授との三者会談が三面にわたって展開され、興味深かった。
 三者ともここ10年、20年の世界に危機感を抱いており、世界の自由主義国が団結して中国を押さえ込まなければならない、と認識している。
 その中でアタリ氏は「日本は(和解した)フランスとドイツのように中国との付き合い方を見出す必要があります。彼らが民主主義に移行するように仕向けるのです」と述べている。
 米ソ対立を見るまでもなく民主主義と共産主義が同居できるだろうか。出来るとするとアタリ氏の見解は正しいかもしれない。50年程前、ローマに駐在して各国記者と付き合ったが、彼らのほとんどが日本や中国についての認識がほぼゼロであった。独仏が和解できたのは、仏と西独が民主主義国として生きる決心をしたからだ。自由、民主主義、基本的人権を共に求めるという社会基盤が無ければ、求める価値と手法が違いすぎて和解の手掛かりがない。
 国際貿易機関(WTO)は2001年、中国を迎え入れた。世界の価値観を分からせて民主主義国に変化させようとの思いである。世界中が優しく迎えて、相手が学ぶのを待つ様式を採用した。しかし中国は政府補助金で各国の企業をなぎ倒し、「千人計画」等によって世界の先端技術や機密を泥棒したのである。トランプ大統領の対中大激怒が無ければ、中国建国100周年の2049年には、中国が武力によって世界を征服していただろう。
 アタリ氏は「中国の中産階級は民主主義を求めており、日本は中国の民主主義移行を助ける努力をしなければなりません」という。この温情感覚が中国をのさばらせた主因だというしかない。なにしろ4000年の間、選挙を一度もやったことがない“特殊な国”だということを認識すべきだ。
 日本の安倍前首相は「明るく開かれたインド太平洋戦略」を打ち出した。旧来の外交方針を一新するもので、日米豪印の4ヵ国を中心にアジア諸国を仲間に迎える。すでに英仏両国は、戦略に加わる意志を表明し、親中国であり続けた独が、太平洋安定のために軍艦を派遣すると言明した。
 自民党の中軸には安倍構想の意味を弱めようと、「明るく開かれた」と「戦略」を取って使う風潮がある。戦後70年、中国の機嫌を損ねないことが対中政策であるとの誤りが続いている。対中外交の本質は、中国を軍事的に締め付け、その抑止力によって中国を封じること。中国を東アジア地域包括的経済連携(RCEP)に加盟させたが、これは中国をWTOに迎えたことの再現に他ならない。4ヵ国連合の網を徐々に強くし、締め付けていく以外に中国の膨張を抑止することはできない。
(令和3年1月6日付静岡新聞『論壇』より転載)