中国が狙う海洋資源国家日本

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政策提言委員・元公安調査庁金沢事務所長 藤谷昌敏

 日本はこれまで資源のない国とされてきたが、近年の探査技術の進歩により、豊富な資源がEEZ内の海底に眠っていることが次々と明らかになってきた。例えば、南鳥島周辺では、2018年、早稲田大学の高谷雄太郎講師と東京大学の加藤泰浩教授らの研究チームが南鳥島周辺の海底下にあるレアアース(希土類)の資源量が世界の消費量の数百年分に相当する1600万トン超に達することを明らかにした。レアアースはハイブリッド車や電気自動車、風力発電機などの強力な磁石、発光ダイオード(LED)の蛍光材料といった多くの最先端技術に使われる。研究チームは、南鳥島の南方にある約2500平方キロメートルの海域で海底のサンプルを25カ所で採集し、レアアースの濃度を分析した。その結果、ハイブリッド車などの強力な磁石に使うジスプロシウムは世界需要の730年分、レーザーなどに使うイットリウムは780年分に相当した。研究チームはまたレアアースを効率的に回収する技術も確立した。レアアースを高い濃度で含む生物の歯や骨を構成するリン酸カルシウムに着目して、遠心力を使って分離したところ、濃度は2.6倍に高められた。これは中国の陸上にある鉱床の20倍に相当する濃度だ。東大の加藤教授は「経済性が大幅に向上したことで、レアアースの資源開発の実現が視野に入ってきた」と強調した(日経新聞)。
 レアアースは「産業のビタミン」とも呼ばれ、我々が日常使用するスマートフォン、コンピューター、テレビ、バッテリー、自動車などに使われるだけではなく、再生可能エネルギー技術やエレクトロニクス、医療技術分野など、広範な最先端産業に必須の金属元素であり、今後の科学技術の進歩により、さらなる需要が見込まれている。
 
レアアースをめぐる米中対立
 レアアースは中国が世界の生産量の約9割を占めており、これまでも中国による価格操作や供給量の不確実性といったリスクが問題となってきた。米国が中国の通信装備企業ファーウェイ(華為技術)に圧力を加えるなど、さまざまな方向から中国先端技術産業に圧力をかけると、中国はレアアースを持ち出して反発する姿勢を見せた。中国は、全世界に供給されるレアアースの80~90%(埋蔵量約37%)を握っており、米国は自国で使用するレアアースの約80%を中国から輸入していたからだ。米国は、このレアアース問題の解決のため、2020年には、関連研究に3000万ドル(約32億円)を投入し、トランプ大統領(当時)は、同年10月、希少鉱物を過度に外国の敵対勢力に依存している状況について国家緊急事態法に基づく「国家緊急事態」を宣言した。
 これに対して、中国政府は、2020年10月17日、新しい輸出関連法案を可決した。国家の安全と利益を害すると判断される場合、特定の国や企業に対して輸出または特定品目の輸出を禁止できるという「輸出管理法」だ。中国政府は否定しているものの、今後、対米報復手段としての使用、サプライチェーンの分断リスク、レアアースの輸出制限等が懸念されている。
 このように米中が対立を深める中、日本のレアアースの開発が本格化すれば、中国の優位性が失われ、米中対立の構図が一変する可能性が出てきた。
 
尖閣諸島、沖ノ鳥島に対する中国の覇権行動
 中国が以前から狙ってきた資源地帯として、尖閣諸島が挙げられる。中国は今年に入っても平然と尖閣諸島に対する海洋覇権行動を続けている。1月1日夜、尖閣諸島沖合の日本の接続水域に中国海警局の船4隻が今年初めて入り、1月13日にも同局の船4隻が日本の領海に侵入して、日本漁船に接近する動きを見せた。また、昨年10月、石垣市が尖閣諸島の字名を「登野城」から「登野城尖閣」に変更した際、中国政府は在福岡中国総領事館を通して何度も抗議を行っていた。これを受けて加藤勝信官房長官は、本年1月19日の記者会見において、「尖閣諸島は歴史的にも国際法上もわが国固有の領土であり、現にわが国はこれを有効に支配しており、尖閣諸島をめぐり、解決すべき領有権の問題はそもそも存在していない。中国側の申し入れは全く受け入れられない」と語った。
 そもそも中国政府(台湾も)が尖閣諸島に対する領有権を主張し始めたのは1971年に遡る。事の起こりは、東京水産大学の新野弘教授と米ウッズホール海洋研究所の地質学者のケネス・O・エメリー(Kenneth O. EMERY)博士が,1961年に「Sediments of Shallow Portions of East China Sea and South China Sea(東シナ海と南シナ海の浅い部分の沈積層)」という論文を発表して、尖閣諸島に海底資源がある可能性を指摘したことによる。
 そして、中国が狙う海底資源は尖閣諸島だけにとどまらない。それは沖ノ鳥島だ。沖ノ鳥島を中心に設定される半径200海里(約370km)の排他的経済水域(EEZ)の広さは、日本の国土面積の約12倍に相当する(約40万平方キロ)。この海底にはメタンハイドレート(低温かつ高圧の条件下でメタン分子が水分子に囲まれた固体、「燃える氷」ともいわれる)やレアアースが眠っている。この沖ノ鳥島は、満潮(高潮)時には2つの小島が海面上にわずかに頭を出すだけだが、国連海洋法条約第121条1項の「自然に形成された陸地で高潮時にも水面上にあること」を満たしている。
 それにもかかわらず、中国は2004年ごろから、「沖ノ鳥島は島ではなく岩だ」と主張し、違法な海洋調査を繰り返すようになった。2010年4月には、10隻の艦隊を沖ノ鳥島周辺まで進出させ、対潜水艦戦訓練などを実施した。2020年7月には、10日連続で中国の海洋調査船「大洋号」がワイヤーのようなものを海中に下ろして調査活動を行い、海上保安庁の巡視船の警告を無視して調査を強行した。中国がこうした強硬姿勢に出る背景には、沖ノ鳥島が資源だけではなく、グアム島と日本を結ぶライン上にあるなど、国防上も重要な拠点だということがある。
 今後、中国が実行支配を狙ってきた場合、どのように日本は沖ノ鳥島を守るのだろうか。日米安保条約第5条(米国の対日防衛義務)があるとしても、米軍が日本の無人島を守って中国との全面戦争を覚悟して戦うシナリオは、あまりにも現実味がない。日本の領土を守るのは日本しかないということを我々は強く意識しなければならない。