「巨大組織『宗族』の実態を知るべき」
―宗族内の正義と外の正義の違い―

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会長・政治評論家 屋山太郎

 世界中の主要国が今、中国観をがらりと転換しつつある。世界は2001年に中国をWTO(世界貿易機関)に迎え入れ、友人として共に発展しようと願っていた。その中国が何と世界を支配する野心を露わにしてきたのだ。我々民主主義・資本主義国側の失敗を修正するのには幾百年かかるのだろう。
 世界は中国に騙された訳ではない。良い国になってほしいと勝手に理想を描いて、自ら窮することになったお笑いなのである。中国は4千年の歴史で一度も持続的な民主国家を作ったことがない。理由は民主主義より尊い、強い原理を誰もが尊重しているからである。
 日本は古来の神道に仏教が交じり合って、愛情深く、親切な社会を作り上げた。中国にも道教、儒教、仏教があったが、どれもが民衆を根本的に変えはしなかった。彼等の生活原理は親族だけしか信用できないというものだ。自由主義陣営は同一市場で一緒に仲よくすれば、中国も良くなるはずと一人合点をしたが、今や中国が強くなり世界の覇権を握りそうになっている。
 このような外交上の間違いを犯した原因は中国理解が浅かったからと言うしかない。
 安倍晋三氏が日本の外交を立て直し、中国と対等の地位を築き上げたが、その間、幹事長を務め、まだその任にある二階俊博氏は相も変らぬ親中派である。二階氏の正確な論評が分からないので、経産省出身で、農水大臣も経験した斎藤健氏が、小雑誌で語っているのを引用する。二階氏の代弁をしているわけではないが、保守政党の親中派の見方を代弁している。「中国に対してどのように臨むべきか」との質問に次のように答えている。
 「これからの中国は台頭します。5Gでは中国の技術力がアメリカを超えました。量子暗号は中国が開発し、米国は解読できません」と中国優位の説明が続く。「民主主義も自由主義も信じない国がどうなるだろうか」と懸念も抱く。「しかし一方的な中国叩きになってはいけません。中国に対して欧米やアジアの国を代弁していくことが大切だ」「中国に物申す役割を日本は果たさなければなりません」「米中の間に入るのが日本の役割でしょう」以上の言葉を変えれば日米中の正三角形論ということにならないか。日米同盟とはどのようにあるべきかを考慮していない。
 中国人が2千年以上にわたって信じてきたのが宗族(そうぞく)という概念である。財産は長子単独相続ではなく諸子均分相続で、姓は独立した男子が継ぐ。この親族の男子が宗族を形成し身内の利害を固める。身内の為なら公金横領だろうが、殺人であろうが“正義”となる。習近平氏は公金横領をした共産党員を年に3万人検挙していると公表している。3万人には驚くが、この検挙も共産党でなければできないという。3大宗教などは帽子のようなもの。決して崩れないのが宗族あるいは一族イズムと知るべきだ。こういう国は民主主義国家にはならない。
(令和3年3月3日付静岡新聞『論壇』より転載)