世界最先端レベルに進む中国の自動運転技術、迎え打つ日本は

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政策提言委員・元公安調査庁金沢事務所長 藤谷昌敏

 中国は、2018年に自動運転車の公道試験を認め、以降、上海、北京、武漢、広州、深圳、海南省など26の都市と省が公道試験の詳細なルールを定め、多くの地方政府が参加企業へ多額の補助金や有利な政策を提供してきた。
 現在、中国で完全自動運転技術に取り組んでいる企業は、検索大手の「百度」(バイドゥ)をはじめ、米セコイア・キャピタルやトヨタが支援する「小馬智行」(ポニー・エーアイ)、ルノー・日産・三菱自動車3社連合が支援する「文遠知行」(ウィーライド・エーアイ)、ホンダ中国と提携する「オートX」(深圳市)などがある。
 このうち、「百度」は、自動運転車オペレーションシステム「Apollo」を開発し、2019年時点で97カ国、150社以上の企業が参画している。2019年7月にリリースされたApollo5.0は、無人バス、無人販売車、無人清掃車などあらゆる自動運転車に利用されている。「百度」はレベル4の試験許可を中国で初めて取得した企業で、中国の自動運転車業界を代表する企業の一つだ。
 そして「オートX」(深圳市、2016年創業)は、IT大手アリババ集団から支援を受け、わずか4年で自動運転技術のテストを実現した中国発のベンチャー企業だ。同社は、2020年4月から深圳市の公道を使った完全無人運転タクシー「RoboTaxi」のテスト運用を行っている。テストでは、補助の運転手や遠隔からのオペレーターも配置していなかった。翌2021年1月には世界で2番目、中国では初めての完全無人運転のRoboTaxiサービス(レベル4自動運転)を⼀般に公開した。現在、上海、深圳、武漢などの人口密度が高く道路の繁雑な都市において、100台以上のRoboTaxiを自社のAIプラットフォームで運営し、一般道路を問題なく走行している。4月には、自動運転技術開発について本田技研工業の中国法人である本田技研科技との提携を発表し、同時に最新の「オートX ジェネレーション5 自動運転システム」を搭載したホンダ「アコード」と「インスパイア」の自動運転テストも開始した。
 
自動運転技術を進展させた「中国製造2025」
 2015年5月に中国政府が発表した「中国製造2025(メイド・イン・チャイナ2025)」は、中国における製造業発展のロードマップであり、その計画は、具体的かつ明確だ。「5つの基本方針」(イノベーション駆動、品質優先、グリーン発展、構造最適化、人材本位)と「4つの基本原則」(市場主導・政府誘導、現実立脚・長期視野、全体推進・重点突破、自主発展・協力開放)に則って、2049年までにやるべきことを3段階で明記している。まず第1段階として、2025年までに「世界の製造強国入り」を果たす。次に、第2段階として、2035年までに中国の製造業レベルを世界の製造強国陣営の中位に位置させる。経済力、技術力を大きく向上させ、イノベーション先進国となり、全人民が富裕の道を歩みだす。最後に第3段階として、2049年には「製造強国のトップ」になる。富強、民主、文明、調和、美しい社会主義現代化強国を実現し、総合国力と国際影響力で世界をリードする国家となるとする。中でも10大重点製造業の一つとして「省エネ・新エネルギー自動車インテリジェントネットワーク自動車」が挙げられており、さらに重点製品の目標として、「ネットワークベースの車載インテリジェント情報サービスシステム、ドライビングアシスト・インテリジェント自動車、一部あるいは高度自動運転のインテリジェント自動車、完全自動運転インテリジェント自動車、スマートトラベルカー」を挙げている。
 こうした戦略目標の達成のため、中国政府は、「製造業のイノベーション能力の向上」を戦略任務の第一とする。具体的には、企業を主体に官民学が一体となった「製造業イノベーション体制」の構築を推進し、産業ごとにイノベーションチェーンを整備して、財政・金融・人材などの資源を適材適所に配置する。そして2025年までに40カ所以上の「製造業イノベーションセンター」を設立し、各分野の基盤となる技術開発・人材育成に全力を挙げる方針という。
 
自動運転技術は中国を世界一の自動車王国へ押し上げるのか
 中国は世界最大の自動車市場に成長し、毎年数千万台を生産している。しかし中国で人気のある車は、ドイツのフォルクスワーゲン、アウディ、メルセデスベンツ、アメリカのゼネラル・モーターズ(GM)、日本のトヨタ自動車、ホンダ、日産など海外メーカーとの合弁企業で製造されている。例えば2020年度の販売トップ30社のうち、首位はフォルクスワーゲン、2位ホンダ、3位トヨタなど外資系メーカーが上位を占めている。中国は、こうした状況を逆転し、自動車産業においても中国メーカーが世界を制覇することを目指している。その答えが自動運転技術だ。
 これを迎え打つ日本は、ホンダが2020年11月に自動運転レベル3の型式認定を国土交通省から取得した。自動運転レベル3(条件付き運転自動化)の実用化を国が認可したのは世界初だ。そして2021年3月にはHonda SENSING Eliteを搭載した「レジェンド」が発売された。Honda SENSING Eliteには、ハンズオフ機能、トラフィックジャムパイロット(渋滞運転機能)、緊急時停車支援機能などの様々な特徴があり、高速道路渋滞時などの一定の条件下において、システムがドライバーに代わり運転操作を行うことができる。
 日本において、さらに自動運転が普及していくには安全性や信頼性、道路などの環境整備、法律の整備などの課題が残っているが、中国がスペックの数値にこだわった車造りを優先させるのに対して、日本は基本的なスペックの高さだけではなく、人間と機械(自動運転システム)との協調をもっとも重視した設計を行っている。確かにスペックの数値は、消費者にとって車を理解しやすい指標だが、自動運転車はどこでブレーキをかけるのかなど、道路状況や環境、運転者に合わせた微妙なセッティングを必要とする。
 今後、自動運転レベルの高度化が進めば進むほど、理想と現実のギャップは大きくなり、車のコントロールを補完する人間と機械の協調と整合性が求められていく。これからも日本の先進安全技術や自動運転技術は世界をリードしてゆく可能性が高いものの、莫大な資金と急速な技術革新を武器とする中国との競争は益々激化することになるだろう。