バブル方式は虚構に過ぎない

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政策提言委員・元参議院議員 筆坂秀世

 東京に4度目の緊急事態宣言が発令された。菅義偉首相は、口を開けば「安全安心」という空疎な言葉を繰り返してきた。だが、そもそもそんな4文字熟語はない。広辞苑を開いて見よ。広辞苑では、安全とは「物事が損傷したり、危害を受けたりするおそれのないこと」とある。安全とは、客観的な判断なのである。これに対して、安心とは「心配・不安がなくて、心が安らぐこと」とある。つまり安心するかどうかは、個人の主観的な判断なのだ。
 政府には、国民の安全を確保する責任がある。だが、その安全策で国民が安心するかどうかは別問題なのである。現に政府のコロナ対策には、誰も安心していない。
 新型コロナウイルス蔓延防止のため、東京五輪は、バブル方式が採用されるという。選手や運営関係者を隔離し、外部と接触しないように泡(バブル)の膜で覆うように遮断することからこういう名前が付けられた。
 もし、これを本当に行うとするなら無観客しかあり得ない。競技場に1万人、あるいは数千人の観客を入れる。この他にもIOCやスポンサー関係者は観客ではないという屁理屈で、数千人規模で競技場に入れるという。さらにワクチンを1回しか接種していない7万人のボランティアも参加する。
 宮城・仙台では、7月31日にサッカーの試合が行われる。選手や関係者の移送の依頼を受けた仙台バスの運転手は、ワクチン接種が出来ないままこの仕事に当たることになるという。バブルは、「泡のように消えやすく不確実なもの」という意味もあるが、すでにバブルは消えている。
 ウガンダの選手が成田空港に到着し、検査の結果、1人の陽性が判明した。ところが、この1人だけを隔離し、あとは全員同じバスで大阪の泉佐野市に移動させてしまった。その結果、バスの運転手、泉佐野市の職員、ウガンダの選手が濃厚接触者となった。これが今の日本の水際対策の現実なのである。あるテレビで女性タレントが、「泉佐野が水際かい!」と批判していたが、本当にそうなっているのだ。
 元々の国の方針は、選手を受け入れるホストタウンの保健所で濃厚接触者の認定をするというものだった。つまりその自治体まで濃厚接触者もしくは感染者を普通に移動させるということだった。現に、ウガンダの選手の一人が泉佐野市に着いてから陽性が判明している。
 さすがに、空港で濃厚接触者を特定し、濃厚接触者の判定を受けた者は別のバスで移動させるということになったが、国内のあちこちに濃厚接触者を移動させることには変わりない。空港での判定が正しくできるかどうかも怪しいものだ。
 今、東京を始めとする首都圏では、感染拡大のリバウンドが起こっている。緊急事態宣言の発令もやむを得ない。感染者は、五輪大会期間中に3,000人に達するという試算もある。ワクチン接種もここに来て停滞し始めている。集団免疫獲得までには、まだ何ヵ月もかかることになる。まだまだ安全でもないし、安心も出来ない。