ロックダウンが可能になる法整備を急げ

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政策提言委員・元参議院議員 筆坂秀世

 コロナ感染者数の増加が止まらない。8月26日の東京都モニタリング会議では、専門家から「数週間にわたり、制御不能の状況が続いている」「医療提供体制は深刻な機能不全に陥っている」という指摘がなされた。全国平均の陽性率は6~7%程度だが、東京は20%近くになっている。検査が圧倒的に不足しているのだ。多くの専門家が指摘するように実際の感染者は、発表された数字の2〜3倍はいるということだ。
 この把握出来ていない感染者が、更なる感染の拡大を招く要因になっている。デルタ株は東京や首都圏から全国に拡散していった。だがその東京都や千葉県、埼玉県は、パラリンピックに小中高生の観戦を推奨してきた。政府分科会の尾身茂会長も指摘するように、この観戦自体が感染拡大に直結しないかもしれないが、間違ったメッセージを社会に発することは間違いない。
 東京だけではなく、今、全国で医療提供体制が危機的状態にある。1年半に及ぶコロナとの格闘で医師や看護師は心身共に疲弊しきっている。ある医師は、3、4割の看護師が仕事を辞めたがっていると語っていた。この危機を脱するには、何としても感染者数を減らすしかない。そのためにはワクチン接種を急ぐと共に、人流を抑制することである。政府分科会は4回目の緊急事態宣言を発令する際、人流の5割削減を訴えた。だが最大でも35%程度しか減らず、最近はまた増え始めている。お願いだけでは、もう通用しなくなっているのだ。
 全国知事会も8月20日、オンラインでコロナ対策本部の会合を行い、感染力の強いデルタ株に対して緊急事態宣言では効果が見出せないと指摘、人流抑制の時限的措置として「ロックダウン(都市封鎖)」のような方策の検討を国に求めた。
 菅義偉首相は、口を開けば「人流を減らす」という。だがロックダウンについては、「諸外国のロックダウンは感染対策の決め手にはならず、結果的に各国ともワクチン接種を進めることで日常を取り戻してきている」と述べ、一貫してロックダウンに否定的な態度をとっている。
 だがこれは事実誤認である。勿論、それだけでは決め手にはならない。ニュージーランドでは、ワクチン接種と共にロックダウンを行い、成果を上げている。人流を減らすには、ロックダウンが最も効果的だからだ。
 今、全国の感染状況は、東京ではやや減少傾向になっているが、大阪など多くの府県で連日のように過去最多の感染者を出している。いつまでも今のように強制力の無い緊急事態宣言や蔓延防止措置をだらだら続けているだけでは、感染拡大と医療提供体制の機能不全状態から脱することは出来ない。
 多くの感染症専門家の間からも、例えば2週間程度のロックダウンをやってはどうか、という指摘もなされている。一般市民の間からも、今のやり方は中途半端だという声が上がっている。将来の新たな感染症に備えるためにも、今こそロックダウンが可能になる法整備を急ぐべき時だ。