北朝鮮は、9月11、12日、射程1,500kmの長距離巡航ミサイルを発射し、15日には、弾道ミサイル2発を日本海に向けて発射した。日本のメディアによれば、韓国の3,000トン級潜水艦が9月7日及び15日に潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の発射実験を行ったことに触発されてのミサイル発射だったとのことだ。
この韓国のSLBMの発射実験を行った潜水艦とは、韓国の独自技術で設計・建造した海軍初の3,000トン級潜水艦「島山安昌浩」(トサン・アンチャンホ)(KSS-3)のことであり、2021年8月に就役していた。この潜水艦にはSLBMが6基搭載されている。韓国が同艦を開発した背景には、2019年7月に北朝鮮が3,000トン級と見られる潜水艦を初めて公開し、同年10月初めには「自衛的国防力強化の一大事変」と称した潜水艦発射弾道ミサイル「北極星-3型」発射に成功したことがあるとされる。この「島山安昌浩」の就役により、韓国は米国・英国・フランス・日本・インド・ロシア・中国に続く8番目の3,000トン級超え潜水艦の独自開発国になった。ちなみに「島山安昌浩」という名称は、民族運動家の名前で、上海の虹口公園で尹奉吉(ユン・ポンギル)が起こした「上海天長節爆弾事件」に関与したという嫌疑で日本軍に逮捕され、懲役4年の実刑を宣告され服役した人物だ。
今後、「島山安昌浩」級潜水艦は3隻の配備が予定されており、さらにリチウムイオン電池搭載型3隻が配備される。その後は韓国初の原子力潜水艦が開発されると言われている。いずれも弾道ミサイルもしくは巡航ミサイルを搭載可能で、敵地攻撃能力を有している。「島山安昌浩」級に搭載されているのは、「玄武-3C」対地攻撃用長距離巡航ミサイルを潜水艦発射型に改造したもので、同巡航ミサイルは最大飛翔距離が1,500kmで、黄海や日本海の海中から北朝鮮全土だけではなく、北京や上海などの中国の主要都市や日本全土さえも攻撃可能となる。
また「島山安昌浩」級には、「玄武-2B」あるいは「玄武-2C」弾道ミサイルをベースにした弾道ミサイルも搭載されるという。玄武-2Bと玄武-2Cの最大射程距離はそれぞれ500kmと800kmで、北朝鮮全土を攻撃可能なばかりではなく、海中に潜むという特性から、東京を含む日本の全域を攻撃可能だ。
過剰な自主国防への道を突き進む韓国
朝鮮人民海軍は、旧型の旧ソ連製潜水艦と工作員の潜入用の小型潜水艦が中心の海軍部隊で、朝鮮半島沿岸が主な作戦領域だ。近年発生した事件と言えば、2010年3月26日に北方限界線(NLL)付近の白翎島西南方で、哨戒中の韓国海軍の浦項級コルベット「天安」が朝鮮人民軍のヨノ型潜水艇の魚雷攻撃で撃沈されたとみられる事件程度だ。これを見ても、北朝鮮を敵国とする韓国海軍が外洋での作戦を想定した3,000トンクラス以上の大型潜水艦、ましてや原子力潜水艦を必要とする理由は見当たらない。また最近の韓国と中国との関係から考えても、韓国海軍が東シナ海や南シナ海などに大型潜水艦部隊を展開させ、中国海軍に対抗しようというシナリオも理解しがたい。
さらに韓国は、軽空母建造計画も立案し、2019年8月の「2020~24年国防中期計画」で初めて公式化され、続いて2020年8月「2021~2025年国防中期計画」で概念設計と基本設計計画が盛り込まれた。2021年2月には、韓国国防部は、2022年から国産軽空母の基本設計に着手し、2033年までに実戦配備するという計画を発表した。そして、この事業のため、2兆300億ウォン(約1,900億円)を投入することを明らかにした。
このように韓国が対地攻撃用長距離巡航ミサイルや弾道ミサイルまで装備する大型潜水艦を配備するのみならず、将来的には原子力潜水艦や軽空母を配備する目的は何なのだろうか。
韓国国防部が日本の独島侵攻作戦に対抗する内部文書を報告
2021年2月11日付けの東亜日報によると、「韓国国防部が独島(竹島)をめぐる日本の自衛隊との仮想戦闘シナリオを作成し、国会で非公開報告を行った」との報道があった。シナリオの内容は、「第1段階は、独島上陸の環境を整えるため、サイバー戦を使って“独島封鎖”を主張し、主力部隊の上陸前に派遣する先遣部隊を独島の東島に浸透させる。第2段階では、イージス艦1隻と潜水艦2~4隻、F-15などの戦闘機や早期警報統制機、電子情報収集機などを動員し、制空・制海権を確保する。第3段階は、おおすみ級(8,900トン級)輸送艦や輸送ヘリコプターのチヌークヘリコプター(CH-47)、ホバークラフト(LCAC)を投入し、東島に2個小隊を侵入させる」というものだ。一方、韓国軍はこれに呼応して、F-15Kなどの戦闘機を出動させ、世宗大王級イージス艦、玄武弾道ミサイルなどを総動員して独島を守る計画だ。
この仮想シナリオについて、韓国国防部は、「自衛隊出身の兵器研究家の三鷹聡が2012年12月に日本の雑誌に寄稿した仮想の独島奪還作戦を参考にした」ことを明らかにしている。三鷹聡氏は民間の軍事研究者だが、その雑誌「軍事研究」の中で、「筆者は実際には奪還作戦など絶対に不可能と思っている。本稿はIF戦記ですらない壮大な絵空事である。アメリカの同盟国同士で隣国でもある日韓が武力衝突すれば、国際社会における影響は計り知れない。指摘したいのは、竹島紛争でアメリカが日本側を支援してくれることは将来に渡っても絶対に無いということである」と、むしろ竹島問題での冷静な対応を求めている。
韓国国防部が既に10年ほども前に作成された、一個人の趣味的な仮想シナリオを理由にして、過度の危機感を国民に与え、必要以上の軍備拡張を狙うことは、日本に無用な警戒心を抱かせるだけではなく、米国にも疑念を与えることになるのではないか。
今回の北朝鮮の長距離射程巡航ミサイルと弾道ミサイルの発射実験は、韓国に本当の敵は誰かを改めて知らしめることとなった。日米両国と中国・北朝鮮の狭間で揺れる韓国は、今後、どのようなかじ取りをしていくのだろうか。日本と韓国にとっての最大の国益は、北朝鮮と中国を封じ込めて、北東アジアの平和と安定を図ることだということを忘れてはならない。