「工業国日本の『節電』という恥」
―世界最先端の原子炉建設を―

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会長・政治評論家 屋山太郎

 「節電」とか「停電」というのは終戦直後の特殊な用語かと思っていたら、今頃になって復活の兆しを見せている。どう考えてもこの国はまともではない。今時、節電しなければ全国に配電できない国があるのか。なぜ日本は“一流国家”から、節電せざるをえない“三流国家”に落ちたのか。
 原因の1つとしか思えない事件を挙げる。今年5月31日、北海道泊村の北海道電力・泊原子力発電所の安全性が争われた裁判で札幌地裁の谷口哲也裁判長が「津波に対する安全性の基準を満たしていない」として、同原発の3基ある原子炉全てを運転しないよう命じる判決を出した。北電は福島原発事故以後、海抜10メートルにある同原発に更に6.5メートルの防波堤を建設した。この工事について、裁判所側は「施設された防波堤は地震が起きた際の液状化で地盤が沈む可能性があり、津波を防げない」と主張したのである。北電側は「最新の知見を踏まえ、科学的・技術的観点から説明を重ねてきた」という。
 門田隆将氏によると「日本で類似した判決は過去にいくつもある。福島原発以降8件の差し止め判決が出ている」(WILL 8月号)という。いずれも上級審でひっくり返された事例はないという。実は裁判所で原発イデオロギー論争が起きているのではないか。「安全性を満たすかどうかは電力会社が立証する責任がある。」一見、常識的な言い分だが、実際には科学者が断を下すしかない。根が原発反対だからか、科学者はいつまで経っても断を下さない。裁判は一件にほとんど10年を要する。この間に電力供給事情も変わるだろう。日本の液化天然ガス需要の約9%を担うと言われていたロシアとのサハリン2合弁事業も撤退を余儀なくされそうだ。
 日本の電力が節電するところまで落ち込んできたのは“外圧”のみが原因ではない。何らの方針を示せない政治の無気力にもよる。
 2022年3月のエネルギー源(IEAのデータを基にJFSSが作成)を見てみると日本の原子力は全エネルギーの4.32%。フランスは64.01%、ドイツは5.87%、米国は18.70%を占めている。一見して分かることは、どの国も原子力をことさらに好ましくないとは思っていないことだ。日本では辞めた総理大臣5人が「原発やめろ」と叫んでいるが、他の国にはこういうおかしな老害もない。
 水を使わない原子炉、ケタ違いに小さい原子炉なども出現してきている。日本の科学の粋を尽くして世界最先端の原子炉を作るべきだ。さらに世界一安価な電力を供給したらどうか。工業国を自称しつつ、国民に「節電」を呼びかけるとは恥としか言いようがない。
 日本の太陽光は9.50%、風力は1.04%。目下、岸田内閣は太陽光と風力のシェアを引き上げることも国策としているようだが、この分野は中国が仕切っているような業界だ。敵対的な国家をあえて肥えさせるような馬鹿な政策があるのか。
(令和4年7月6日付静岡新聞『論壇』より転載)