東西冷戦の頃、西側から東側に売ってはならない軍需品のリストがあった。ココム(対共産圏輸出統制委員会)リストと言われたこのリストを見ながら商売をしていれば問題はなかった。
当時、日本は高度成長期で「売れるものは何でも売れ!」という雰囲気に包まれていた。天下の東芝が海軍では「それだけは売ってはいけない」と言われた潜水艦のスクリュー音を小さくするための工作機械をロシアに売った。この時は、官民揃って米国に謝罪した。
この後、登場したクリントン大統領は「国が豊かになれば柔軟化する」という方針に転換し、中国をWTOに引き入れた。
かつてメルケル首相も「自由貿易が平和をもたらす」という考えに基づき旧東側世界に「貿易による変革」を呼びかけたという。本来ドイツは、NATOの軍事力を際立たせる役割のところ、ドイツの軍事力は各国平均のGDP比2%にも満たない1%台で長年推移してきた。またドイツ経済は中国に密着し、自動車、スマホなど様々な製品の生産の半分近くを中国に依存してきた。
東西融和を一発で終わらせたのはトランプ大統領だ。ファーウェイ(華為技術)が何十年もかかって市場拡大してきた製品をいきなり「貿易禁止」と号令をかけた。世界で最も売れていたファーウェイの通信機器は今や、欧州でも入手が不可能になっている。
ドイツはロシアからノルドストリーム2を敷いて、天然ガスの45%を輸入している。ロシアから止められるのか継続できるのかの瀬戸際にあるが、自国産業の致命傷になる程の量を一国から買うようになったのは失敗だった。60年代イタリアはロシアからガスを輸入するかどうか議論したが「赤いガスで玉子焼きができるのか」といった反対が多かった。相手の国を信用できるかどうかは、相手のお国柄、過去の歴史に依る。このご時世に、隣の国を手に入れようと占領してみせる国があるとは、誰も思わなかった。
中国は、西側技術の窃盗を目的に人材を派遣している。現代における戦は「知能化戦争」と呼ばれ、主に人工知能(AI)や高速インターネット通信、自動運転技術といった最新技術が兵器に活用されている。日本学術会議が「軍に関与しない」などと格好の良いことを言っているが、中国に行けば、日本の学者が軍に関与してもいいのか。
中国には人民解放軍が使用する兵器や装備品の開発を担う「国防七校」と呼ばれる大学がある。日本では45もの国公立、私立大学が協定を通じて国防七校から留学生を受け入れており、その中には東北大助教授の肩書もある。今年2月22日、読売新聞は「経済安保、見えない脅威」とのタイトルで、中国が開発した極超音速ミサイルについて、日本の技術が流用された可能性があると報じた。公安調査庁によると、日本で働く中国人技術者が中国軍部に協力しているケースは多いという。
(令和4年7月27日付静岡新聞『論壇』より転載)