マイナカード大混乱の必然

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政策提言委員・元参議院議員 筆坂秀世

 マイナンバーカードと健康保険証の一体化や口座情報の紐づけなどの作業をめぐって、政府や自治体、関連機関が大混乱に陥っている。そもそも全ての国民に番号を付けるというマイナンバー制度そのものが、国民の膨大な情報を「効率的に管理及び利用」するために作られたものである。それが国民にとってどれほど必要なものなのか、説得力ある説明を聞いたことがない。
 そこにマイナカードを作れという方針が打ち出された。今の日本は、様々なカードや銀行口座を使った詐欺が横行している。“カードなど出来るだけ作らない、持ち歩かない”ことが身を守る最良の方法だ。そんな時に、生涯変らない個人番号や個人情報が分かるマイナカードを作れと言われても素直に従うわけがない。私も作ったが机の奥深くにしまったままだ。持ち歩かなくても不便な事など一つもない。証明書の役割なら健康保険証でほぼ間に合う。住民票など役所に行けば簡単に取れる。
 マイナカードを持つメリットなどほとんどないことは、総務省のHPを見ればよく分かる。そこには最大のメリットとして、真っ先に最大2万ポイント貰えるということが強調されている。これしかないのだ。この時点で、このカードは終わっていると言うべきだ。2万ポイントなどすぐに費消される。最大のメリットは、速攻で雲散霧消するということだ。
 2万円分のマイナポイントを付与するという“にんじんをぶら下げる”やり方まで行なってその推進を図ってきた結果、カードの交付率は現在約77%になっている。だがこのために使った予算はすでに2兆円を超えている。行政の効率化どころか、壮大な無駄遣いだ。
 何が何でもマイナカードを作らせるために次に打ってきた手が健康保険証との一体化だ。しかも来年の秋には現行の健康保険証を廃止するというのだ。この強引なやり方によって、マイナカードは任意ではなく、強制になってしまったのだ。これではまさに国家的詐欺である。
 しかもこの無理矢理なやり方の結果、あってはならないミスが次々と引き起こされているのだ。コンビニなどで別の人の住民票が発行されてしまうトラブルが頻発し、病院の窓口で「無保険扱い」になり、一時的に医療費10割を請求されるケースも相次いだ。判明しているだけでも別人の情報が紐づけされた誤登録が7,300件超見つかっている。厚労省は4日、健康保険組合など全団体を調べた結果、8.6%(293団体)で紐づけ時の本人確認が不十分だったと発表した。ルール通りに紐づけしていたか不明の団体も29.6%(1,010団体)あり、今後の点検が必要だという。紐づけ作業をしたのは、健康保険組合や自治体など約3,600機関に上っている。
 この混乱の根底には、国民にとってさしたるメリットのないマイナカードを無理矢理推し進めてきたということがある。混乱は必然なのだ。不安になった人々は、マイナポイントを受け取った人も含めてカードを返納する動きを強めている。これを非難できるだろうか。