芸能事務所とテレビの責任にメスを

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政策提言委員・元参議院議員 筆坂秀世

 ジャニー喜多川氏の多数の少年への性的虐待という蛮行には呆れるほかない。同時に、この事実をほぼ気付いていながら、ジャニーズ事務所の言いなりになってきたテレビを初めとするメディアの無責任さにも驚く。今になってテレビ局の反省の弁を聞くが、要するに子どもの人権擁護や犯罪的行為の告発よりも、金儲けを優先したというだけのことだ。
 99年に『週刊文春』がジャニー喜多川氏による性加害疑惑報道に対して、喜多川氏側は名誉毀損の訴えを起こした。だが東京高裁は03年に報道の真実性を認める判決を出し、最高裁も上告を棄却したため04年には文春側の勝訴が確定した。だがこの事実をほとんどのテレビ、新聞などがジャニーズ事務所の力を恐れて黙殺した。これはメディアの責任放棄以外の何ものでもない。
 日本テレビの藤井貴彦アナは「20年以上前から日本テレビ社内ではジャニーズ事務所に対して『怒らせるとキャスティングができなくなるのでは、取材ができなくなるのでは』といった認識や雰囲気が生まれていた」と語っている。他のテレビ局、メディアも同様の認識だったのだろう。
 日本のメディアが騒ぎ出したのは、今年になってイギリスの公共放送BBCが喜多川氏による性的虐待を大々的に取り上げてからだ。日本のメディアは恥を世界に晒したのである。
 この問題で想起するのは、今から10年前にNHK連続テレビ小説「あまちゃん」で主演し、大ブレークした能年玲奈さんのことだ。現在は「のん」と名乗っている。なぜこんな芸名になってしまったのか。当時のんさんは、所属していた芸能事務所の労働条件があまりにも劣悪だったため移籍を強く求めたという。移籍を認めない事務所側は、芸能界に入る時の契約書の中に、「退社後、レプロエンタテインメントの許可なしには能年玲奈という芸名は使えない」という内容があったことを悪用して、能年玲奈という本名の使用を禁止したのだ。こんな非道な仕打ちをしても、取り上げたメディアは『週刊文春』だけだった。
 現在、のんさんのエージェントを務めるコンサルティング会社「スピーディ」の福田淳社長は、J-CASTニュースの取材に対し、「本当に信じられないような内容でした。いわゆる奴隷契約と申しましょうか、低賃金で移籍の自由もなく、本名が使えないとか…。うちの弁護士は…その内容には驚愕していました」と語っている。
 芸能事務所の圧力は凄く、のんになって以降、CM以外には地上波でのテレビ出演は皆無である。ただ地上波でのドラマはないが、のんさんの仕事はすこぶる順調で、2年先まで仕事が入っているそうだ。福田社長は、〈芸能事務所というのは、何の権限もビジネスライセンスもない。口利きをするだけです。監督官庁が主導して、フェアな取引を可能にするためのビジネスライセンス制度にすべきだ。労務管理やギャラの配分をきちんとしているのかを透明化すべきだ〉と指摘している。厚労省や公取委も関心を強く持つべきだ。