ハマスの攻撃はなぜ成功したのか
―ハマスの背後にいるイラン、ロシア、北朝鮮の関係とは―

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政策提言委員・金沢工業大学客員教授 藤谷昌敏

 10月7日、イスラムテロ組織ハマスが突然、分離壁を破って戦闘員1500人以上がイスラエルへの大規模な攻撃を開始した。これに対し、イスラエル側も激しい空爆で応酬した。イスラエルは戦闘機や無人航空機(UAV)から投下される精密誘導弾や地上から発射される砲弾を使用して、ガザ地区内に存在する多数のハマス関連の標的を攻撃した。これらの攻撃によって、数人のハマス高官のみならず多くの民間人を含む200人近くのパレスチナ人が死亡したとされる。ガザ地区では、現在もイスラエル軍の空爆による死者が増え続けており、保健省はこれまでの死者が約2500人以上にのぼることを明らかにしている。パレスチナを支援する国連機関は、ガザの住民は、人道上危機的な状況に陥り、200万人が水不足に直面していると強く警告している。
 一方、ハマスを支援してきたイランは、10月14日、アブドラヒアン外相がカタールの首都ドーハで、ハマスの最高幹部 ハニーヤ氏と会談し、「イスラエルの戦争犯罪からガザ地区の人々を守るため、われわれは努力を続ける」と述べ、今後も協力を続けることを確認した。さらに「イスラエルがガザで戦争犯罪を続けるなら、この地域で何が起きてもおかしくない」などと、イスラエルを強くけん制した。本原稿執筆時(10月18日現在)、イスラエル軍が、パレスチナ自治区ガザ地区への地上侵攻をともなう大規模攻撃にいつ踏みきるのか、緊迫した状況が続いている。
 
イスラエルはなぜハマスの攻撃を察知できなかったのか
 専門家の間では、今回のハマスの攻撃理由について、「ハマスを支援するイランは、イスラエルとサウジアラビアの歴史的な和平合意の機運が高まっていたこと、いわゆる融和ムードに強く反発していた」「イスラエルを宿敵とするイランが攻撃を仕組んだが、背後にはロシアがいて、米国の力を削ぎウクライナへの関心をそらすために、中東に第二戦線を構築する意図でハマスを動かした」「ハマスが人質をとったのは人間の盾にするだけではなく、イスラエルの刑務所に収容されているパレスチナ人約4500人と人質を交換するためだ」などと様々な見方が出ている。
 今回のハマスの攻撃について、世界最強とも言われる情報機関「モサド」が事前察知できなかったことに対し、内外から大きな非難が沸き上がっている。イスラエル政府は否定しているものの、3日前にエジプト情報機関から、「ガザ地区で何か大きな事が計画されている。非常に近いうちに大ごとになる」と警告を受けており、「モサド」が警告を軽視していた可能性がある。
 以前、イスラエルの情報機関は、ガザ地区やハマス内部に情報要員を使ってスパイ・ネットワークを張り巡らし、ハマスの動向を監視していたが、近年はドローンや障壁上に設置したカメラ、センサーなどに頼ることが日常的となっていた。今回、ハマスは情報漏れを防ぐため、電話やネットは使わず、地下などで少人数に絞って対面で計画を協議し、イスラエルのデジタル監視網をかいくぐっていた可能性がある。
 
ハマスは武器をどのように手に入れたのか
 ハマスは攻撃当初、5000発以上のロケット弾を発射し、イスラエルが誇る防空システム「アイアンドーム」を打ち破り、イスラエル側に大きな損害を与えた。ハマスはなぜこれほどの武器・弾薬を持っていたのだろうか。
 北朝鮮のハマスへの武器支援については、既に2000年代の初めごろから、様々な報道がされていた。北朝鮮は、武器支援以外にも「ガザメトロ」と呼ばれる広範囲なトンネル・ネットワークの建設にも力を貸していた。「ガザメトロ」は、ハマス司令部、戦闘員の移動、待機場所、燃料、武器弾薬庫、病院など複数の役目を与えられており、セメントを使った建設の手法が北朝鮮のものに酷似しているとされる。
 ハマスの軍事部門であるエゼディン・アル・カッサム旅団は、独自生産の無誘導ロケット弾を攻撃の主力としているが、地上戦では対戦車ミサイル(ATGM)も使用しており、イスラエル国防軍(IDF)で運用されているほとんどの車両の装甲を高い精度で貫通することができる。ハマスは無誘導ロケット弾や携帯対戦車擲弾発射器(RPG)、さらには無人機の国産化にも成功しているが、ATGMの入手については膨大な武器密輸ネットワークとイランからの軍事援助に依存している。このATGMは、9M14「マリュートカ」、9M111「ファゴット」、9M113「コンクールス」、強化版の9M133「コルネット」などで、少数の北朝鮮製のATGM「Bulsae-2(火の鳥)」も含まれている。カッサム旅団が武器を入手する方法は、おそらく、武器がスーダンに運ばれた後、陸路でエジプトに移送され、そこから地下トンネルを通ってガザ地区へ密輸されたものと思われる。
 
今後どうなるのか
 ハマスは、ガザ地区内のトンネル内にある工場であらゆる兵器を製造しており、ロケット弾は射程が10キロ、80キロ、160キロ、250キロのものまで多岐にわたる。より大型の兵器に関しては、イランのイスラム革命防衛隊(IRGC)がハマスの技術者を対象とした研修を長期間行っているといわれる。ハマスの技術者はこれからも技術がどんどん洗練され、高度な武器の製造技術を身に着けていくだろう。また、北朝鮮の武器・弾薬は、イランを通じて密輸されてきており、今後、さらにイランの高性能な ATGMや長距離ミサイルが導入されれば、イスラエルにとって重大な脅威となるに違いない。
 いずれにしろ、今回のハマスとイスラエルの対立は予断を許さない状況であり、米国が中東情勢に大きく関与できないことを考えれば、今後、イランや周辺諸国を巻き込んだ第5次中東戦争勃発の要因ともなりかねない。
 
(参考:「ハマス」とは)
 公安調査庁発行の「国際テロリズム要覧」(2022年版)によると、ハマス(HAMAS:Harakat al- Muqawamaal-Islamiya)とは、1987年12月、ガザ地区で発生した第一次インティファーダ(民衆による抵抗運動)がパレスチナ全域に拡大した際、同地区の「ムスリム同胞団」最高指導者シャイク・アフマド・ヤシン(2004年死亡)が、武装闘争によるイスラム国家樹立を目的として設立した武装組織である。軍事部門「エゼディン・アル・カッサム旅団」を有する。