語る力が欠如している岸田首相

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政策提言委員・元参議院議員 筆坂秀世

 世論調査で軒並み最低の支持率となった岸田内閣だが、その原因をもっとも分かっていないのが岸田文雄首相だ。すでに首相になって2年になるが、首相が自らの言葉で何らかの問題について、説得力ある説明を行ったことがない。
 就任時に「新しい資本主義」を打ち出したが、その中身は未だに不明なままである。
 専守防衛ではなく、トマホークミサイルなど「敵基地攻撃能力」を保有する、防衛費をGDP比2%にまで増やす、そのために大増税も行うという「安保3文書」は、これまでの日本の防衛戦略を大転換するものである。ところが岸田首相は、なぜなのかを何一つ語っていない。国民にアピールしたのは「防衛増税」だけである。
 原発政策でも、既設原発を可能な限り活用するとして、現在「原則40年・最長60年」としている運転期間の上限を事実上撤廃する方針を決めた。東日本大震災で起こった深刻な原発事故で苦しんでいる日本で、なぜ60年以上の延長が可能であり、必要なのか。岸田首相の口からは何も語られていない。
 もしかしたら岸田首相は、安保政策や原発政策の転換をさほど重要な転換だと思っていないのではないかという疑念すら抱いてしまう。
 政治家にとって大事なことは、決断して決めることだけではない。「なぜこういう決断をしたのか」を、説得力を持って語ることである。岸田首相には、これが決定的に欠けているのだ。自民党内からも“もっと語れ”という批判・不満が出ている。
 今年3月に福島で開かれた「こども政策会議」という催しで、子どもからの「どうして総理大臣になったのですか」という質問に対し、恥ずかしげもなく「日本で一番権限が大きい人だから」と答えていた。総裁選の最中のテレビに出演した際にも、「首相になったら何をしたいか」を問われ、「人事」と即答していた。
 ここには共通点がある。首相になり、権力を振り回したいが、やりたいことは特段ないのだ。だから政治を弄ぶのだ。先の国会の終盤、岸田首相はニヤニヤしながら「解散権」をちらつかせてみせた。だがいかんせん目力(めぢから)がない。岸田首相には、何をしゃべっていても本気の人間に備わっているはずの目力がないのだ。これは松野博一官房長官も同様だ。官房長官と言えば「内閣の顔」である。だが同氏が毎日行う記者会見では、一貫して伏し目なのだ。「増税メガネ」と「伏し目のスポークスマン」では、人気が上がるわけがない。
 今騒ぎなっている減税問題も、防衛増税や異次元の少子化対策増税が想定され、「増税メガネ」などとネット上で揶揄されていることを意識したものなのだろう。だから「減税」という言葉にとことん拘ったのだ。税収が伸びたから還元だというが、国民はチマチマした減税など求めていない。今為政者がやるべきは、国民に媚びを売ることではない。1,270兆円を超える国の借金を減らし、若者の将来不安を解消する道筋を示すことだ。