澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -394-
中国の「一帯一路」構想と「魯班工坊」

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政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司

 周知のように、中国共産党は「一帯一路」構想で、米国の世界覇権に挑戦している。
 同構想は、表面的にはアジア・アフリカ・ヨーロッパ諸国と経済的「ウィン・ウィン」関係を目指す。しかし、その実態には大きな疑問符が付く。なぜなら、「一帯一路」に参加した国々は、習近平政権の「借金漬け外交」で苦悩しているからである。
 一部の国では、すでに借款の返済が滞り、港湾を中国に乗っ取られている。代表的なのは、パキスタンのグワダル港やスリランカのハンバントタ港あたりではないか。これらの港は北京による「真珠の首飾り」作戦(インド包囲網の一環)に使用される。
 このように、中国にとって「一帯一路」構想は、軍事的な意義が大きい。けれども、同国に経済的メリットはあまり見当たらない。せいぜい「人民元圏」を拡大するに役立つ程度だろう。
 それにもかかわらず、北京が「一帯一路」構想を推進するのは、「新植民地主義」政策のためかもしれない。
 「一帯一路」構想と平行して、中国共産党は語学教育機関である「孔子学院」を世界中の教育機関と連携して創設した。
 「孔子学院」は、表向き、各国の人々に中国語を教える。しかし、その中で、共産党のイデオロギーまで学生達に刷り込もうとした。そのため、各国は「孔子学院」に対し警戒感を抱き始めた。
 さて、「一帯一路」構想の中で新しく出現したのは「魯班工坊」である。魯班とは、春秋戦国時代に出た“匠”であり発明家である。中国では傑出した偉人として崇められている。
 「魯班工坊」では、中国側がアジア・アフリカ・ヨーロッパ諸国に技術を教える。「匠の技」を相手国に伝授する。すでに、タイやエジプト等では北京によって「魯班工坊」が創設された(ヨーロッパ諸国の場合、中国料理等を教える)。
 中国が相手国に対し、あくまでも“善意”で教え込むなら何ら問題はない。しかし、北京が相手国から何の見返りを求めず、無償で技術支援するのは極めて考えにくい。習近平政権は、「魯班工坊」を梃子にして、途上国に食い込む算段ではないか。
 だとすれば、「魯班工坊」は、あくまでも中国共産党による「一帯一路」構想実現のための手段に過ぎないだろう。
 翻って、我が国は、今のところ、中国共産党の「一帯一路」構想に参加していない。それにもかかわらず、日本国内には「一帯一路」構想を支援する組織が存在する。
 おそらく、このような組織は、中国共産党との関係が深いと思われる。同党からすると、かかる団体は利用価値が高いのかもしれない。
 ところが、このような団体は、自らが北京に使われているという認識がほとんどないように見える。それどころか「日中友好」という耳触りの良いスローガンの下、自ら進んで「一帯一路」構想に手を貸そうとしている。結果的に、中国共産党の「新植民地主義」に加担しているのではないか。
 目下、世界第2位の経済大国、中国は、世界第1位の経済大国、米国との熾烈な「貿易戦争」を戦っている(ただし、“熱戦”にはなりにくく、たぶん実弾が飛び交う事もないだろう)。そのため、中国共産党は、世界第3位の経済大国、日本や第4位のドイツに秋波を送る。
 実際、中国では、なぜか今頃になって、日本アニメ(ジブリ作品)が上映されている。『となりのトトロ』や『千と千尋の神隠し』などが中国人に受けているという。北京は、これらの作品をなぜ今更、公開するのか。習政権の、“日独に近づき、米国との戦いに勝利したい”という思惑が透けて見える。
 おそらく、北京政府は、経済的苦境を何とか乗り切るため、単に我が国を活用しているに過ぎないのではないか。中国共産党の“掌返し”はよく知られている。現在、同党は「親日」のポーズを取っているが、また、いつ再び「反日」に舵を切るのかわからない。
 既述の如く、その北京の戦略にまんまと嵌っている日本人が少なからず存在する。
 もし、彼ら日本人がしっかりと『孫子』を熟読すれば、習近平政権が何を考えているのか、あるいは、何をしたいのか、おおよその見当がつくだろう。
 結局、一部の日本人が『孫子』を読まないゆえ、中国共産党に利用されている観がある。
 『孫子』こそ、中国人の行動原理を示すと言っても過言ではない。