「北極星3号」の潜在能力は、中国の新型潜水艦発射弾道ミサイルのレベルだ

.

政策提言委員・軍事/情報戦略研究所長 西村金一

1.北極星3号発射には、北朝鮮が読まれたくない秘密がある
 私は、北朝鮮が、「正確に判別できる北極星3号の映像を公開していない」ところに、大きな疑問を感じている。情報分析官としての長い経験から、そんな疑問には、「大きな山が隠れている」と考え、その疑問を深く掘り下げて分析することにした。
 北朝鮮はこれまで、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を水中から発射したのは北極星1号だけで、北極星2号の場合は、地上の移動発射台から発射しただけで、水中からは発射していない。今回発射した北極星3号の飛翔距離は、2,000~2,500kmであるので、3号発射の前に、北極星2号を水中から発射しても同じ威嚇と宣伝効果があったはずだ。
 だが、北極星2号を水中から発射する実験をせずに、今回10月2日に北極星3号を水中から発射した。北極星3号は、これまで軍事パレードにも出現したことがない。また、地上からの発射もしたことがない。北朝鮮は、ミサイルが未完成でもパレードで行進させた。また、ミサイルを発射すれば、国営のメディアに、移動発射台に載せたミサイルや発射直後・飛翔状態のミサイルの写真を堂々と見せつけてきた。このように「見せつけて自慢する」ことが北朝鮮のこれまでの姿勢だ。
 だが、今回の実験では、これまでと違って堂々とは公開していない。このミサイルが何なのか正確に判別できないようにしている。38ノースの情報には、新浦級潜水艦を配置している埠頭にテントを張って、衛星から見えないようにしていた衛星写真もあった。これも北朝鮮が、北極星3号を見せたくない意図であると考える。これを公開することで、大問題になる可能性が潜んでいるからであろう。また今、この時期に、このミサイルを発射しなければならない理由があるからであろう。北朝鮮にしては奇妙なことだと、私は感じ取っている。

2.「北極星3号」は、これまでのものとは異なり、かなり進化したミサイルのようだ 
 メディア関係者から、「北極星3号は、これまで実験してきた北極星1号・2号と比較すると、少し性能が向上しているようですが、実際はどうですか」と質問された。私は、朝鮮中央通信が発表した北極星3号の写真を見て、「少し」ではありません、「格段に向上している」「かなり衝撃を感じている」と答えた。
 射程1,000~2,000kmを飛翔する北極星1号や中国海軍「夏(シア)」級弾道ミサイル潜水艦に搭載されているJL-1の発射の迫力とは、全く違うのだ。ミサイル本体の太さ、海中から水面上に飛び出す迫力、エンジンを点火して飛翔し始めるエンジン噴射炎の大きさと勢い。そして、その形状が中国海軍最新の「晋(ジン)」級弾道ミサイル潜水艦に搭載されている射程約8,000kmのJL-2に酷似している。
 つまり、これまでの威力とは全く違う規模であり、私がSLBMの第1世代と評価する射程1,000~2,000kmのものが、第2世代の7,000~8,000kmに性能アップしたものと評価できる。

3.飛翔距離だけを見れば、中国の旧式レベルのようだが、実は違う
 韓国軍の発表によると、ミサイルの飛翔距離が約450km、飛翔高度が約910kmであった。防衛省は、通常弾道の軌道であれば約2,500kmを飛翔したであろうと推測した。飛翔距離だけから判断すると、北極星1号・2号よりも少し性能アップしている、中国海軍の旧式ミサイルのJL-1とほぼ同じ性能のものだ。
 だが、北朝鮮が公開した写真から判断すると、少しの性能アップどころではない。中国の新型であるJL-2とほぼ同じと見てよい。
 その根拠がいくつかある。直径がこれまでのものよりもかなり大きいミサイルが、海面から空中に飛び立つ時に、強い力で押し上げられて、水面がかなり持ち上がっている。また、形状がJL-2に似て、ミサイルの先端部分が、比較的平べったく丸い。北極星1号・2号や中国のJL-1のように細くとがっていない。
 形状がJL-2に極めて類似していることを基準に、このミサイルを評価すると、JL-2は直径が2~2.2mであり、全長は約13mである。異なるところといえば、直径と全長の比率での比較から、北極星3号の全長が短いというところだ。これは、弾頭部、ミサイル本体の直径、エンジン部分を変えずに、飛翔距離だけを短くするために、固体燃料を少なくした分、本体の長さを短くした可能性がある。何か政治的な理由のために、意図的に短くしたものと考えられる。
 北極星3号の潜在能力はどれほどのものか。北極星3号の固体燃料の量を、中国のJL-2と同等にすれば、その射程は、JL-2と同様に約8,000kmになるであろう。日本海から発射すれば、グアムどころかハワイやアラスカまで飛翔することが可能だ。

図1 北極星1・2・3号の場合の射程(日本海から発射)及びJL-2同等のSLBMを日本海からハワイ方面に発射すれば(イメージ)
 
出典:筆者作成

4.なぜ、潜在能力や判別できる映像を隠しているのか
 飛翔距離が約8,000kmに大きく至らなかったのは、米国を刺激して、今後の交渉をストップさせないためだろう。つまり、ミサイルの基本性能は同じで、飛翔距離だけを短くしたことが考えられる。その理由は、8,000kmも飛翔させてしまうと、トランプ大統領のメンツも潰すし、怒らせて、北朝鮮が望む米朝交渉を完全に中断させてしまう。再び、北朝鮮に対して武力攻撃する案が浮上してしまう。つまり、ミサイルの潜在的脅威を見せつけて、交渉が進展しなければ、「ハワイまで届くSLBMを発射するぞ、交渉は失敗しトランプの成果は無くなるぞ」と脅しをかけたのだ。
 しかし、武力行使までさせないぎりぎりのところで止めた。今後の交渉を優位に進めるために、飛翔距離を意図的に短くしたものと考えられる。
 また、北朝鮮が、発射したミサイルを正確に判別されないようにしているのは、中国によるミサイル製造支援が暴かれないようにしているためでもあるだろう。

5.ミサイルは潜水艦から発射されたのか、大型SLBMを発射できる潜水艦を保有しているのか
 発射位置は、元山の北約17kmの元山湾水域であり、写真から判断できるように、水中から発射したものと評価できる。北朝鮮では、これまでもそうだが、ロシアがかつて使用していたバージ型のテストスタンドを海に沈めて発射したものと考えられる。

図2 バージ型の発射台のイメージ図
 
出典:ロシアがSLBMを開発当初に使用していたバージを基に筆者作成

 ところで、北朝鮮が中国軍のJL2のような大型ミサイルを発射できる晋級弾道ミサイル潜水艦(12,000トン)を保有しているのかというと、保有はしていない。北朝鮮は、現段階では、小型のミサイルしか発射できない新浦級を保有しており、ゴルフ級かロメオ級レベルのものを開発中だ。だが、このレベルの潜水艦では、大型のミサイルを発射することは極めて難しい。このクラスの潜水艦に、自殺行為を承知の上で、大型のミサイルを1~2発を搭載する可能性もある。
 大型のミサイルを搭載できる潜水艦を保有していないのに、ミサイル発射実験を行ったのは、極めてチグハグな行為である。ということは、米朝交渉を有利にするためだけに、中国のミサイル技術を導入して製造したか、あるいは、中国企業が製造したものを分解して北朝鮮に持ち込み製造したか、そして、ミサイル実験だけを強行したと考えれば納得がいく。

6.北朝鮮は今後、何をしてくるのか
 北朝鮮は、米朝交渉が思い通りに進展しない場合には、このタイプのSLBMを使って、逐次射程を延伸した射撃をするだろう。日本列島とハワイの中間に、最悪、ハワイ付近に打ち込んでくる可能性がある。金正恩は習近平の後ろ盾を得て、困ったら習近平に助けを求める。ミサイルやロケットの技術、あるいはミサイルそのものも供与してくれている可能性もある。米中が貿易戦争をしている間は、中国が北朝鮮を止めに入ることもない。したがって、金正恩は、自信を持って米朝交渉に臨むことができる。
 朝鮮半島は、文大統領の動きも含め益々危険な状況になってきた。