北朝鮮によるノドンを使った日本への脅し、何故今なのか

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政策提言委員・軍事アナリスト 西村金一

北朝鮮は8月3日、弾道ミサイルノドンを秋田県男鹿半島沖の西方250キロの日本の排他的経済水域(EEZ)内に落下させた。今回の射撃の狙いはこれまでとは異なり、日本に「切迫してきた脅威」と感じさせるように行ったものと言って良い。 北朝鮮はこれまで、テポドン2改弾道ミサイルでも「衛星」と称して、国際的な非難を避けようとしてきた。6月のムスダン射撃でも、高射角(ハイアングル)射撃で日本を通過することなく、日本近海に落下しないように配慮していた。
 さらに、今年の初めから党大会までは、韓国ソウルの大統領府にロケットを打ち込む映像や弾道ミサイル搭載の核兵器を米国のワシントンに打ち込み、焦土化する映像を映し出して見せた。このように、韓国や米国を攻撃の焦点として恫喝していた。
 ムスダンの射撃は実験の要素が高く、実験が終了しているノドンの射撃は、実戦訓練の要素が高い。北朝鮮が、ムスダンの実験を継続して実施することは理解できるが、実験ではないノドンの訓練を、わざわざ今、あからさまに日本を脅すように実施する必要があるのか。何故日本を対象としたのか、そして何故今なのか。北朝鮮にとって、利益になることは少ないように思われるのだが、何か特別な理由があるのだろうか。
 その理由として、次の三つが考えられる。
 一つは、ムスダンやノドンの一連の発射実験や訓練の一環と評価するもの、二つは、韓国が配備しようとしているTHAAD(サードミサイル)高高度防衛ミサイルは、日本には必要であっても韓国には必要ないものと思わせる。三つは、中国の南シナ海領有権主張が否定された反響を、北朝鮮の恫喝的なミサイル発射問題で、トーンダウンさせる動きである、と評価するものである。
 一つ目の評価については、改めてここで説明する必要はないと思う。
 二つ目の評価について、「韓国はスカッドで狙われている。日本はノドンで狙われている」ということを強調したいということである。日本は、ノドンを撃ち落とすためにTHAADが必要だろうが、韓国は、スカッドを撃ち落とせばいいのでTHAADは不必要だろうと思わせる。そして、韓国にTHAADを配備させないように導いていく流れではないだろうか。
 三つ目の評価について、これを解明する糸口となるのは、南シナ海問題である。7月12日仲裁裁判の決定が出てからの中国の異常とまで思われる日本への過激な非難と、中国と北朝鮮の関係を、以下の時系列で見ると、その理由が浮かび上がってくる。

7月12日、オランダ・ハーグの仲裁裁判所の裁定で、中国の領有権主張は否定され、フィリピン政府の主張が認められた。
 中国政府は「法的根拠がなく、米国政府がでっち上げた反中シナリオの一環としての茶番」と非難した。
7月19日、北朝鮮は、日本海に向けて、ノドン1発を発射した。
7月25日、ASEAN外相の拡大会合(ラオス)で、中国は、仲裁裁判の黒幕として日本を非難。仲裁人を任命した国際海洋法裁判所の柳井俊二所長(当時)について、「日本の右翼だ」、「フィリピンの背後で日米が結託して中国を陥れようとしている」と主張した。
 同日、北朝鮮李容浩外相と中国王毅外相の会談が行われた。
7月28日、人民網ニュースは、「中国国防部(国防省)は、南中国海問題でとやかく言わないよう日本側に忠告した」と報道した。
8月2日、人民網ニュースによると、「日本防衛省が発表した2016年度防衛白書は、南中国海や東中国海の問題をいわれなく誇張し、中国軍に対する悪意に満ちており、中国と近隣国との関係に水を差し、国際社会を欺いている」と主張している。
8月3日、北朝鮮が、日本近海にノドン1発を打ち込んだ。

これらの事象が時期的に一致するということから、中国と北朝鮮の連携プレーと見る。つまり、中国が、南シナ海問題で日本を悪者にする。同時に、北朝鮮にわざと恫喝的な動きをするように仕組む。そして、日本や国際社会を混乱させて、「中国が国際規範を守っていない」という批判をすり替えるあるいはトーンダウンさせようとしていると思って良いだろう。
 中国が北朝鮮に対して厳しく経済制裁をしているので、この2国が連携しているとは考えられないと、多くの中朝専門家の方々には否定されるかもしれない。
 だが、まず、武器貿易の点で2国関係を見ると、昨年の軍事パレードで初めて出現し、韓国の大きな脅威となっている300ミリ長射程多連装ロケット(GPS誘導で極めて正確に射撃できる)は、中国製の多連装ロケットと中国製の車両を輸入して組み立てられたものだ。つまり、中朝間では、現実に武器貿易が、それも近代的で攻撃的な兵器の貿易が行われているのだ。
 次に中国から北朝鮮への約50万トン石油輸出について、中国はその貿易統計データを計上しなくなった。つまり実情を隠したのだ。北朝鮮への石油輸出はパイプラインを使用しているという情報があるが、石油パイプラインの石油の流れについては、第三国に開示していない。もしも、中国が北朝鮮への経済制裁を確実に実施していると主張するのであれば、武器の輸出を止め、石油パイプラインの開閉バルブを第三国に継続的に監視させるべきである。
 さらに、8月4日、国連安保理の緊急会議で、中国やロシアの反対があり、北朝鮮への非難決議が採択できなかった。
 これらのことから、中国と北朝鮮の2国間関係は、表面上は冷えているように見えていても、裏では手を握って連携していると見るべきであろう。