自民党総裁任期の見直し
―「一内閣一政策」から「長期的政策実現可能」な時代へ―

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会長・政治評論家 屋山太郎

 自民党の総裁任期は「3期9年」になるようだ。これは日本の政治を根本から変えることになるだろう。これまでの総裁は自分が実行したい政策があると、どうしても2年か4年の単位で実現することしか考えていなかった。これでは社会保険制度の改革や外交政策の大転換などという旗を掲げるわけがない。
 現職中に実現することを考えれば、小ぶりの政策しか打ち出せなくなる。そのせいか、最近では「一内閣一政策」など小手先の政策しか打ち出さなくなってしまった。
 総裁の任期を2年とか3年と短く区切った理由はかつての中選挙区制度に原因があった。この制度は必然的に党内に五~六派閥を生むことになった。派閥結成を可能にするのは勿論、政治資金である。従って親分の資質は人望に加えて「金集め」の才が不可欠になる。立派な政治家でも金集めがイヤで“下っ端”に甘んじている人が大勢いた。古来、日本では「政治家は質素であれ。カネが欲しければ商人になれ」と言われてきたものだ。これは武士道の基本だが、これを公然と打ち破ったのが田中角栄氏である。金と権力を同時に握った政治家で、この人物が公然とはやされるようになった現代が世も末だという気がする。
 田中氏が総裁になる直前、任期は2年から3年に延ばされたが、これは田中氏に政権獲得に費やした元を取り返させてやろうという計らいだった。いずれにしろ任期を短く区切ってきたのは総裁候補達に元を取らせてやるというのが前提だったわけだ。
 しかし小選挙区制度主体の選挙に変更したのは選挙に金を使わなくするのが第一義だ。その代り、公的資金を投入して個人での金集めの必要性を薄めた。選挙のやりようによっては“個人献金”を集める必要がないはずだ。
 資金は党首か幹事長の手元に集まり、等分に分配するか、選挙区の情勢を見ながら幹部が配分する。これまでのように“親分”の機嫌をとって政治資金を貰わなくてもいいようになったのだ。
 現在、安倍氏を支持する細田派は95人。特定の人を支持しない無派閥が95人。総裁派閥と素浪人が同数ということは、誰もが敢えて派閥に属する必要がないことを物語っている。
 石破茂氏は幹事長時代“新人研修”と銘打って“政治講義”をしていた頃、参加する人数は常時100人を超えた。この調子なら、「安倍の次は石破だ」と言われたものだ。しかし次の総裁選に備えようとしたのか、石破氏は派閥を結成。ところが参加したのは立候補に必要なわずか20人ポッキリ。総裁を選ぶ時は政策や人望で選ぶということだろう。
 安倍氏はデフレ脱却のための財政政策、安保法の成立を内政、外交の柱として首相に立候補した。アベノミクスはまだ実現していないが、これに代えろという代案もない。新安保法は中国の出方を見れば大成功だった。大きな政策を成功させるには長い時間が必要なのだ。
(平成28年10月26日付静岡新聞『論壇』より転載)