澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -192-
北京の地下鉄で集団自殺した天津詐欺被害者

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政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司

 昨2016年12月26日、天津市「渤海商品取引所」で詐欺に遭った8人(男性3人女性5人、年齢は30歳~60歳で出身地もバラバラ)が北京へ陳情に行った。だが、受け入れられなかったため、彼らは北京の地下鉄車内で4人ずつ時間差で農薬を飲み、集団自殺を遂げたという(一部の人は助かったという報道もあるが、定かではない)。
 今年(2017年)1月9日、国務院(内閣)は「各種取引所を整理するための省庁間会議」(第3次会議)を北京で開催した。会議を主催したのは、中国証券監督管理委員会主席の劉士余である。
 前回は、2012年2月と7月に会議が行われた。今秋、5年毎の中国共産党第19回全国代表大会が開かれるので、その前に、全国300以上の違法な取引所(大連市・北京市・青島市・河北省・江蘇省・湖南省・寧夏回族自治区等)に対し、適切な措置が講じられることになった。
 実は、今日に至るまで、違法な天津市各種取引所は整理されていない。同市に関しては、大規模な取引所詐欺があっても、当局から調べられたり、摘発されたりせず、事実が隠蔽されてきたという。
 張高麗(政治局常務委員、国務院第一副首相)は、かつて天津市委員会書記(2007-2012年。事実上の同市トップ)だった。しかし、張は未だ天津市各種取引所(天津市鉱物资源取引所、天津渤海商品取引所、天津貴金属取引所、天津電子材料産品取引所)で行われた詐欺の責任を取っていない。
 2009年9月、「渤海商品取引所」は「24時間電子取引を実現し、国際市場と統合している」等を謳い文句に、天津迎賓館(天津市委員会、及び天津市政府と同じ場所)に看板を掲げた。そして、同年12月、同取引所は正式にオープンしたのである。
 当時、張高麗は、官民協力の下、各種取引所設立を積極的に支持してきた。その会員である多くの企業は、香港や広東省を後ろ盾にしている。だが、天津市には当局から制約を受けない取引所が存在し、それらが多くの詐欺を働き、多数の人々を破産させた。
 2012年5月、人民網のネットユーザーが張高麗に対し、天津の一部「取引所」を整理したらどうかと提案した。同年8月、張高麗は、取引所に投資している人々が多く、口座番号も5万近く存在する。このような状況下で、取引を中止したら、更に大きな市場リスクを誘引するだろうと回答した。
 結果的に、張高麗は取引所での詐欺行為の旗振り役を演じたのである。
 翌9月、数百人以上の“私募”よる被害者が天津市政府の門の前に集まり、“私募”詐欺の調査を要求した。
 だが、その頃、ちょうど中国共産党第18回全国代表大会直前だった。中国トップ(政治局常務委員)が決まる大事な時期だったので、国内のメディアはこの件を全く報じなかったのである。
 同年11月、第18回党大会で、張高麗が政治局常務委員、国務院第一副首相へ昇格した。
 2014年8月、『21世紀経済報道』が「渤海商品取引所」の乱脈ぶりを調査した。そして、張高麗の親族が広東益建集団を利用し、同取引所を通じて価格を操作し、投資者からカネを略奪していると報じた。
 ところが、翌9月、早速『21世紀網』は閉鎖された。同時に、当局は記事に関わった8人の記者や編集者を逮捕し、実刑に処している。
 2016年5月、今度は『中国経済周(週)刊』が「渤海商品取引所」に投資した85人が詐欺の被害を受けていると報じた。
 同年7月、被害者の唐崇偉がもう生きて行けないとして、天津市政府の門前で瓶に入った農薬を半分飲んだ。幸い、唐は死ななかったが、全身に赤い発疹ができた(その後、唐は毎日、金融局の門前で寝て抗議しているという)。
 翌8月1日、天津市政府前で、詐欺被害者の金文強が睡眠薬40錠を飲んだ。同月17日、やはり天津市陳情局で、4人の被害者が睡眠薬を飲んでいる(金と4人の安否は不明である)。
 同月25日、天津鉱物取引所で詐欺被害に遭った唐と曾という名の2人が、北京の地下鉄1号線車内で農薬を飲んで自殺したことがネット上で暴露された。
 今後、張高麗が政治局常務委員等の役職を辞した時、天津市の取引所や“私募”等による一連の金融詐欺の黒幕が暴かれるに違いない。