澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -229-
北朝鮮の中国に対する挑発

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政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司

 よく知られているように、北朝鮮が核実験やミサイル開発で、米国を牽制・挑発している。それらは、当然、韓国や日本への牽制・挑発も兼ねているだろう。
 しかし、同時に金正恩政権は北京政府に対しても、核やミサイルで揺さぶりをかけている点も見逃せない。
 我が国では、金王朝の敵は日米韓だけという“思い込み”が流布している。そのためか、北の核・ミサイルと日米韓の軍事演習等を無理に結び付けようとする。だが、これは必ずしも正しくない。
 ここ1年で、北朝鮮が習近平政権にどんな“嫌がらせ”を行なったのか、順に追って整理してみよう(ここでは『いちらん屋』「北朝鮮のミサイル・ロケット・飛翔体発射実験の一覧」を一部参照)。
 第1に、昨年(2016年)8月3日、北朝鮮は黄海南道・殷栗付近から日本海に向け弾道ミサイルを2発発射した。
 1発目のミサイルは発射直後に爆発、失敗した。2発目のミサイルは約1000km飛行し、 秋田県男鹿半島沖約250kmの排他的経済水域(EEZ)内に落下している。
 この日は北戴河会議2日目だった。この事実は見逃せない。
 北戴河会議とは、毎年、現役の党幹部と引退した党幹部が避暑地、河北省北戴河に集まり、これからの政策や人事を決める非公式重要会議である。
 第2に、北朝鮮は昨年9月5日、黄海北道の黄州付近から日本海に向けて弾道ミサイル3発を発射した。
 そのミサイルは中距離弾道ミサイル「ノドン」と見られる。ミサイルは北海道奥尻島西方の沖に落下した。
 当日は、「G20杭州サミット」開催2日目だった。習近平主席は、北のミサイル試射によって、各国首脳らの前で大恥をかかされた格好である。面子を重んじる中国人にとっては、北のミサイルはさぞかし忌々しかったに違いない。
 第3に、今年(2017年)3月4日、北朝鮮はミサイルで中国の民間飛行機を狙ったのである。このミサイルについて、日本ではあまり報道されていない。
 当日夕方、中国南方航空機―成田発瀋陽行CZ628便―(エアバスA321型。乗客乗員合わせて202人)の航路に約6分差で北のミサイル(240ミリ放射砲ロケット弾)が無警告で発射されたのである。
 そのロケット弾は、約2万mまで上がり、落下した。同航空機は、その後、間もなく予定のフライト航路(高度約1万m)を通過した。その地点は、ロケット弾の弾道と交差していたのである。
 万が一、同機が6分ほど早くロケット弾の弾道へ入っていたら、大惨事となっていただろう。中朝間で、深刻な事態を招いたことは想像にかたくない。明らかに、北朝鮮が中国を挑発したのである。
 第4に、北朝鮮はその2日後の3月6日に、北朝鮮北西部の平安北道の東倉里付近から、日本海に向けて射程距離約1000キロの「スカッドER」と見られる4発のミサイルを発射した。
 中国での全国人民代表大会開催2日目である。
 第5に、2ヵ月後の5月14日、北京で「一帯一路」国際サミットが開催された。その初日、北のミサイルが発射されたのである。
 当日午前5時28分頃、北朝鮮西岸の亀城付近から、1発の弾道ミサイルが東北東方向に発射された。その弾道ミサイルは、約30分の間、約800キロメートル飛び、朝鮮半島東約400キロメートルの日本海上に落下したと推定されている。
 以上、これらを総合的に判断すれば、北朝鮮の核実験・ミサイル開発は、決して金正恩委員長の“暴走”という単純なストーリーではない。
 北京戦区の一部(旧瀋陽軍区)と北朝鮮の関係は今もって緊密だと言えよう。江沢民系の「上海閥」が未だに金正恩体制を支えていると言っても過言ではない。そして、習近平主席と対立する「上海閥」が、金委員長を使って、習近平政権を挑発(恫喝)している可能性も排除できないだろう。
 周知の如く、金王朝は、金日成・金正日・金正恩と続いている。だが、この王朝は、核・ミサイル開発を“国是”としてきた。従って、北は余程の事がない限り、急にそれらの開発を止める事はないだろう。