「衆院総選挙、各党の公約に欠ける日本の将来像」
―少子化・保育園不足・教育の無償化・定年延長問題―

.

会長・政治評論家 屋山太郎

 総選挙に向けて各党の公約が出揃った。一つずつを見ると尤もらしく見えるが、不満なのはどの党も「日本の将来」の姿を描いて、「だからこそ各政策はこうあらねばならない」という説得力に欠けることだ。少子化、保育園不足、教育の無償化、定年延長問題などは誰もが関わる問題であって、一部の良いところだけを声高に叫ぶのが選挙だと思ってはならない。
 「保育園落ちた。日本死ね」というネット上の叫びは、恐らく子育てに必死で取り組む母親の痛恨の叫びだろう。国に対する絶望と怒りを含んでいる。フランスでは0歳から3歳まで保育園(所得に応じて有料)、幼稚園は義務教育で無償。日本と違うところは「保育園が足りない」となれば市町村の首長が罰せられることだ。「フランス死ね」と叫ぶ状況にはならない。
 続いて小学校、中学校の義務教育に行くと、授業料は勿論、教材に至るまで無料だ。私は欧州から帰国して、当時小学生の子供を横浜市の小学校に入れたところ、裁縫箱を買えという。手製の裁縫箱を持たせたら、揃いの裁縫箱でなければならないという。6000円もするのには驚いたが、こういうのを教育の無償化とは言わないのである。小・中義務教育は一銭もかからないことを目指して貰いたい。授業料が高くても質の高い私立に行きたい子供のために、橋下徹氏は大阪府知事時代、公立校の授業料より高い部分を府で補助した。学歴差や学校差で階級が固定化しない配慮だった。差をつけてはいけないという配慮をするせいか、日本では専門高校が少なすぎる。工業高校やIT専門の高校など、専門学校を増やすべきだ。所得制限を設けてもいいが、無料化をする自治体があってもいい。
 大学の無償化を叫ぶ人がいるが、無償だからといって全員が青春の4年間を無就に過ごすようになったら、国はお終いだ。進学率は減ってもいい。その代り、授業料が出せない理由で大学に行けない子には奨学金を出せるようにする。高校長に成績証明を書かせ、志望の大学に入学したのちには丸抱えで卒業させる。奨学金は授業料だけでなく生活費も半分程度無償で贈与するのが良い。
 育児休暇後の復職について、フランスでは元の職階に戻さないと、会社が罰せられる。日本では職場復帰自体で嫌がらせを受けたり、暇なポストに移されたり、月給を安くされたり、復職を妨げるハードルがやたらに高い。「過労死」などという単語が国際語になっているのは国恥だ。フランスでは使用者が負担する分について、国が大きな基金をもっていて、そこから企業負担分を補助する。3人以上の子供を持つと動物園も国鉄もタダだ。こうして出生率1.62が2.02まで持ち直した。
 日本の場合、定年を65歳、或いは70歳まで延長する政策を考えるのがいいだろう。移民を受け入れる考え方もあるが、移民には日本社会は厳し過ぎるのではないか。
(平成29年10月11日付静岡新聞『論壇』より転載)