澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -256-
中国共産党「19大」が終わって

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政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司

 今年(2017年)10月18日から始まった中国共産党第19回全国代表大会(「19大」)は、同24日に閉幕した。翌25日、最高幹部の政治局常務委員7人がお披露目されている。
 今回、政治局常務委員制度が継続されるか否か注目されていた。また、人数を5人へ減らす案等が噂されたが、結局、現状維持された。
 習近平主席・李克強首相は予定通り残留したが、王岐山は同常務委員会に残ることはなかった。米国に亡命した郭文貴の「王岐山スキャンダル攻撃」が奏功したとも言えよう。王岐山は 「国家監察委員会」のトップになって、習近平政権を支えるのかも知れない。
 さて、5人が新メンバーとして入局したが、顔ぶれはおおよそ予想通りとなった。栗戦書・汪洋・王滬寧・趙楽際・韓正である。但し、陳敏爾・胡春華の60年代生まれは、入局出来なかった(因みに、入局した栗戦書と王滬寧の2人は犬猿の仲だと言われる)。
 さて、7人のメンバー中、李克強・栗戦書・汪洋・趙楽際・韓正らは、皆「共青団」出身である。では完全に胡錦濤系メンバーかと言えば、そうでもない。
 周知のように、習近平主席の出身母体は「太子党」である。しかし、元来「太子党」はごく少数である。そして大部分の「太子党」は、ビジネスに精を出している。他方、習近平人脈の「之江新軍」は、一部を除き、まだ高位に就くまでに至っていない。
 そこで、習主席は「共青団」出身者から人材を登用したと考えられる。勿論、「太子党」・「上海閥」・「共青団」の区別はあくまでも“理念型”であり、党員が3グループに完全に峻別されている訳ではない。2グループ、或いは3グループ全部に関わっている人物さえいる。
 今度の人事では、習近平の権力基盤はほぼ固まったのではないか。今後5年間、習近平主席はますます“独裁化”し、権力の更なる集中が起こると考えられる。「党主席」復活(終身制)も、十分あり得るだろう。
 但し、現在中国では経済がネックとなっている。習政権はサプライサイド経済を行っているが、これがあまり上手くいっていない。また、懸案の国有企業改革も遅々として進んでいないのである。ゾンビ企業の整理を行わない限り、中国経済は蘇ることはないだろう。ただ、それらが既得権益を有する解放軍や党幹部と深く結び付いているので、改革は困難を極めるに違いない。
 習近平政権は、「反腐敗運動」で大トラを失脚させた。そのため、社会的エリートは「反腐敗運動」に反発し、仕事に対しやる気をなくし、目下「事なかれ主義」が蔓延している。
 一般庶民はどうか。実は、大トラは彼らとほとんど関係ない。庶民は普段イジメられている「ハエ」(下級役人)の存在こそが大問題である。「ハエ」は全国にいくらでもいるので、党中央が懸命に退治しようとしても難しい。
 日本の一部メディアは、一般人民が「反腐敗運動」を拍手喝采しているなどと報道しているが、事実とは異なる。某テレビ局などは「反腐敗運動」と中国での大ヒットドラマ『人民の名義』(正確な訳は『人民の名において』)を同列に論じている。
 前者はあくまでも共産党員のモラルを問う“党紀”で裁く。一方、後者は最高検察院が“法”の名の下に、腐敗した人間を逮捕して裁く。中国では、党紀の方が法律より上位に位置している。実に奇妙ではではないか。どうやら某テレビ局は、現実とフィクションの区別さえついていないようである。
 そもそも、何故習近平主席が権力集中を進めるのだろうか。習主席が共産党の全権を掌握し、その後、(台湾民主化の先鞭をつけた)蔣経国のように中国民主化の道を歩めば、後世まで末永く称えられるはずである。
 けれども、習主席は自分が第2の毛沢東になり、「中華民族の偉大な(る)復興」という「中国の夢」を実現させるために権力を掌握しようとしている。たとえ「中国の夢」が実現したとしても、中華民族を含めた世界の人々は決して幸せになれないだろう。
 ところで、今度の人事では、“実務派”と言われる汪洋が入局した。おそらく汪洋は米国対策用人事ではないだろうか。習近平主席としては、トランプ政権と仲良くし、世界を米中で2分したいと考えているかも知れない。
 しかし、トランプ政権は、日本・ロシア・インドと組んで、中国叩きに出るのではないか。世界ナンバー1の米国(歴代米政権)は、異質な世界ナンバー2を敵対視する傾向にあるからである。
 同国は、第2次大戦前は日本を、大戦後はソ連邦を敵視し、実際、潰してきた。その“歴史の教訓”からすれば、現在の(北朝鮮を含めた)中国こそが米国の敵ではないか。