澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -262-
習近平「微笑外交」の裏側に隠された意図

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政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司

 今年(2017年)11月10日・11日、ベトナム・ダナンでの「アジア太平洋経済協力」(APEC)首脳会議が開催された。11日、習近平主席が安倍晋三首相と“親しげ”に首脳会談を行っている。
 その際、両首脳は「日中関係の新たなスタートとなる会談」として、両国の関係改善に取り組む姿勢を示した。近く両国首脳会談を開く事で一致したという(2日後の13日、フィリピン・マニラでのASEAN首脳会議では、今度は李克強首相が安倍総理と会談を行った)。
 振り返れば、2014年11月、習主席と安倍首相は、北京でのAPEC首脳会議の開催に合わせて握手を交わした。だが、当時「凍てついた握手」と評されている。
 翌2015年4月、「バンドン会議60周年」(インドネシア・ジャカルタ)で日中首脳会談が行われた。翌日の中国の新聞には、安倍総理は習主席の方を向いているが、習主席は目を合わせていない写真が掲載されている。
 昨2016年9月、主要20ヵ国(G20)首脳会議が杭州で開催された。会議閉幕直後、習主席と安倍首相が会談を行っている。その際、中国側は日本の国旗を掲げなかった。
 だから、今回、習主席の安倍首相に対する“掌返し”の「微笑外交」に驚いた人が多いのではないか。
 習主席も中国共産党第19回全国代表大会(「19大」)を無事、乗り切り、ほぼ自らの思惑通りの人事となった(他方、安倍首相は先の総選挙で“大勝”している)。
 一部の日本メディアが伝えているように、習主席はその“余裕”から「微笑外交」に転じたのだろうか。我が国の憲法改正を阻止するため「微笑外交」に切り替えたと論じるメディアさえ現れた。
 そこで、今後、日中関係が改善されるのではないかと期待する声が出ている。だが、果たしてそうか。当然、習近平主席の「微笑外交」には何か裏があると見るべきではないだろうか。
 現在、習近平主席は、毛沢東型「家父長制」の復活を目指している。同時に、習主席は「中国の夢」、即ち「中華民族の偉大なる復興」(=「中国的世界秩序」の再構築)をスローガンに掲げている。
 今でこそ習主席は、米中(G2)での「世界分割統治」を謳っている。だが、将来、仮に中国が米国を経済的に凌駕するようになれば、世界での覇権を目指すのは間違いないだろう。
 一方、周知のように、2012年12月、安倍晋三首相は「セキュリティ・ダイヤモンド」構想を引っ提げて再登場した。日本・米国(ハワイ)・オーストラリア・インドという自由主義・民主主義の国家で中国の“膨張”を阻止しようとする戦略である。
 オーストラリアに関しては、微妙な立ち位置 (時には、中国に近づく) にいるので、必ずしも当てにならない。その場合には、日本・米国・インドの3国で中国を包囲する。
 トランプ米大統領もこの「セキュリティ・ダイヤモンド」構想を熟知し、支持しているはずである。現共和党政権は、(中国嫌いの)ロシアとも結び、「中国封じ込め政策」を採っていると考えられよう。
 以上のように、習主席と安倍首相は、お互いに真っ向対立する世界戦略を持っている。水と油である。
 それでは、今般、何故習近平主席は外交姿勢を軟化させた(という“ポーズ”を取っている)のだろうか。
 実は、北京の発表する経済的数字とは異なり、依然、中国の景気はあまり良くない。
 その理由の一つとして、習近平政権は「サプライサイド経済学」を標榜しながら、非効率な国有企業を“巨大化”するという矛盾した経済政策を行っているからである。
 他方、習政権は国内の「ゾンビ企業」の整理・整頓もままならない。大量の失業者を生むので、仕方なく「ゾンビ企業」を存続させている。だが、このままでは、財政赤字が膨らむばかりだろう。
 本来ならば、一番手っ取り早い景気浮揚策として、公共投資が考えられる。しかし、中央政府はあまりにも財政赤字が膨らんでいる(最低でも対GDP比250%、ひょっとすると300%超)ので、それを簡単には出来ない。
 そこで、習主席は、「微笑外交」で我が国にアジアインフラ投資銀行(AIIB)や「一帯一路」構想への参加を促すつもりではないか。つまり中国は日本からの投資や日本の技術が欲しいのである。
 結局、中国は自国の経済成長のため、我が国を利用しようとしているに過ぎないのではないか。そうでなければ、一貫して安倍首相を“毛嫌い”していた習主席が急に「微笑外交」へ転じるはずがないだろう。