澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -276-
中国の対台湾「星火T計画」

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政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司

 2018年、年明け早々、中国共産党による台湾併合計画が明るみに出た。これを「星火T計画」と言う。この計画は、現役の台湾軍人を中国側に取り込み(オルグし)、「中台統一」を実現することが最終目標となっている。
 しかし、大多数の台湾島民は「中台統一」を望んでいない。平和的な「両岸統一」の可能性はゼロに近い。従って計画を遂行、実現するためには、武力で台湾を奪取するしかない。この計画はそのための“下準備”だと考えられる。
 「星火T計画」の台湾での主な活動としては、(1)ネットでデータベースを作成する(2)既存の人脈を深化させる(3)軍事をテーマに活動する (4)学術研究報告を行う――等がある。
 例えば若者向けには、Facebookで友人になると3000~5000新台湾ドル(約1万1400円~約1万9000円)、直接会って話せば1万新台湾ドル(約3万8000円)、プライベートで会話ができるようになると5万新台湾ドル(約19万円)の報酬が支払われるなど。
 さて、昨2017年、台湾で中国人留学生がスパイ活動を行っていたという驚くべき事件が発覚した。逮捕された周泓旭(遼寧省出身、元共青団、31歳。)は浙江大学を卒業後、台湾の名門、国立政治大学大学院で学んでいた。ところが、周が近付いた中華民国外交官が、どうも周の行動が怪しいと当局に報告したのである。
 同年3月、台湾法務部調査局は周泓旭の身柄を中国共産党のスパイ容疑で拘束した(中国人留学生がスパイ容疑で拘束された初めてのケースである)。
 当初、周はスパイである事を否認し続けたが、4ヵ月後の7月、ついに自身がスパイであると認めたのである。そこで、台北地検は周泓旭を「国家安全法」で起訴した。同年9月、台北地裁は周に対し懲役1年2ヵ月の刑を言い渡している。
 その周泓旭と関係の深かったのが、台湾の王炳忠(台南県出身、台北市萬華育ち、新党青年委員会主席、30歳)だった。王炳忠は、国立台湾大学卒、国立政治大学修士課程修了のエリートである。
 本来台南県は、所謂「台湾人意識」の強いところで、民進党の地盤でもある。ところが、王炳忠の父親・王進歩は(国民党による)「中国統一」の理想に燃えていたことから、王炳忠は父親に強い影響を受けたと考えられる。他方、郁慕明・新党主席も長期間、王炳忠を「統一派」に育ててきたという(新党は、当時の李登輝総統に反発して国民党から分かれた)。
 2014年3月、中台間の「サービス貿易協定」批准を巡って台湾では「ひまわり学生運動」(学生らが立法院を占拠) が起きた。王炳忠は、その運動に反対している。
 王はその年の11月に行われた統一地方選挙(新北市板橋区市議員選)に出馬したが、落選した。更に、2016年1月の立法委員選挙にも、新党の比例候補(順位は6番目)として出馬している。しかし、あえなく落選した。
 実は、中国国務院台湾事務弁公室は、王炳忠を台湾側の窓口として、海峡両岸の「統一工作」を行おうとしたのである。王は中国共産党の「星火T計画」に沿って「燎原新聞網」を立ち上げ、「新中華子女学会」(自らが会長となる)を創設した。
 昨2017年12月、王炳忠は郁慕明・新党主席と一緒に訪中した。台湾法務部調査局は、王炳忠の行為は「国家安全法」に違反するとして拘束したが、翌日には釈放している。
 今年1月2日、台北地検主任検察官の周士楡は次のような報告を行った。今後3年間、中国国務院台湾事務弁公室は、王炳忠に対し、毎年1500万~1600万新台湾ドル(約5700~6080万円)の資金提供を承諾したという。
 翌3日、台湾国防部は現役軍人4人と退役した2人の予備役軍人が「星火T計画」に関わっていると発表したが、台北地検が調査したところ、現役軍人らの違法行為は認められていない。
 以上現在のところ、この計画による影響は水際で対処できているかに見えるが、中共の執拗な統一工作は今後も続く。中共の戦略に飲み込まれないための「台湾の結束」強化に期待したいものである。