宇宙にまで目を向ける北朝鮮

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政策提言委員・軍事/情報戦略研究所長 西村金一

 金正恩は3月27日、中国滞在中に科学アカデミーを訪問した。短い日程の中で、金正恩が電波望遠鏡を見ていたが、その理由は何だろうか。以下の3つの視点から分析する。

◇ 北朝鮮には、自分達で打ちあげた衛星を観測する能力はない
 北朝鮮は、「光明星3・4号」という名称の衛星を、「銀河3号」ロケットで打ち上げた。2012年12月に打ち上げられた衛星は軌道に乗り、NORAD(北アメリカ航空宇宙防衛司令部)は、光明星3号2号機を国際衛星識別符号2012-072Aをつけた。実際には、機能せず、通信電波も発信していない。2016年2月に光明星4号を打ちあげ成功した。この衛星も、3号同様に通信電波を発信していない。
 北朝鮮は衛星を追随するレーダーを保有しているといった情報はない。また、米国から飛んでくる弾道ミサイルを探知するレーダーもない。当然、ミサイル防衛システムもない。弾道ミサイルを撃ち込まれたら、一発も撃ち落せない。
 つまり、北朝鮮は、米国本土を狙えるICBMの開発に成功したとはいえ、将来予想される宇宙戦の能力は著しく劣っているのだ。

◇ 金正恩は、なぜ中国で電波望遠鏡を見ていたのか
 電波望遠鏡は、宇宙の星や衛星を観測するものだ。金正恩は、この望遠鏡で、宇宙の星を見たいと思ったのか。実は、打ち上げた衛星を観測するとともに、米国から飛翔してくる弾道ミサイルを探知できる施設を建設したいと考えていたのだろう。
 宇宙での戦いに目を向け始めたということだ。宇宙での戦い、宇宙からの攻撃でも一方的に敗北しないことも考え始めたと言える。
 
 もう一つ別の狙いがある。
 北朝鮮は、「宇宙に目を向け、平和的利用を考えている。だから、今後トンチャンリ基地から発射するのは、ミサイルではなく、衛星を打ち上げるためのものだ」という理由付けに使うのではないか。
 すなわち、ミサイルの開発は凍結するが、宇宙に関心を持ち、トンチャンリ発射基地から銀河3号(4号の可能性もある)ロケットで、光明星という衛星を打ちあげるのだとし、「平和目的の宇宙技術を開発する」ことを表明したいのだろう。

 電波望遠鏡の模型を見ている金正恩
 
 出典:朝鮮労働新聞電子版(3月28日)

◇ 衛星打ち上げは、ミサイルの発射と同じか異なるのか
 北朝鮮は今後、南北会談や米朝会談がうまくいった場合、表向き、ミサイルの発射はしないが、平和目的の衛星を打ち上げることを計画しているとも考えられる。北朝鮮の論理でいくと、衛星を打ちあげることは、ミサイルを発射するということではなく、国連制裁決議1695に違反していないと主張するだろう。
 では、衛星を打ち上げるロケットは平和目的ロケットであり、ミサイルは相手国を直接攻撃できる軍事目的兵器だと区別できるのか。実際区別できない。
 実態的なものでみると、衛星を打ちあげるロケットは、サイロ式発射型弾道ミサイルと全く同じものだ。
 例えば、旧ソ連やロシアの場合を例に挙げると、①開発したICBMを、衛星打ち上げロケットにも使用している。具体的には、衛星打ち上げの「UR-100N」ロケットはICBMの「SS-11SEGO」、「SS-19STILLRTO」であり、「プロトン」ロケットは「UR500(SL-9)」という名のミサイルだ。
 ②宇宙ステーションに宇宙飛行士を運ぶために使用されるソユーズロケットは、旧ソ連最初のICBMの「R-7(SS-6SAPWOOD)」を発展させたものだ。
 つまり、衛星打ち上げロケットとミサイルは同じものだ。

 北朝鮮は、予定されている南北首脳会談や米朝首脳会談で、「ミサイル開発を凍結する」と発言する可能性がある。そして、制裁などが解除されれば、ロケットを発射して、「平和目的のための衛星を打ちあげた」と詭弁を弄するだろう。