北朝鮮の「核実験やミサイル発射実験を中止」は、 核・ミサイルを廃棄する具体的行動ではない

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政策提言委員・軍事/情報戦略研究所長 西村金一

  北朝鮮は朝鮮労働党中央委員会総会で、4月21日から核実験や弾道ミサイルの発射実験を中止すると決定し、北部の核実験場を廃棄すると決めた。 
  だが、これらのことは、核・ミサイルを廃棄するということではない。1・2回目の交渉と同じように、騙しのプロセスを進めているだけだ。
  破棄のための具体的な行動ではない理由は、以下のとおり。

・北朝鮮はこれまで、核実験とICBMの発射を成功させていて、核やICBMの兵器や設計図を保有している。少なくとも、全ての核兵器や短・中・長距離の弾道ミサイルを廃棄しなければ、非核化とは言えない。

・実験を中止すると言っていても、米朝関係が悪化し、「実験を再開する」と宣言すれば、いつでも後戻りができる。

・「北部の実験場を廃棄する」と決めたとしているが、北朝鮮豊渓里実験場は、東部・北部・西部・南部の4つの実験場がある(「図 北朝鮮の核実験場」参照)。
東部は、使えなくなって過去に閉鎖されている。北部は、6回目の実験で壊れている。西部では、いつでも実験が可能である。南部は、掘削中である。
北部の壊れた実験場を廃棄するといっても、6回目の実験で壊れた施設を破壊するだけで全く意味のないものだ。そして、まだ、西武と南部の実験場が残っている。また、それは、新しいものなので、これから何度でも使える。
北朝鮮は、2007年の六者会合合意で、プルトニウムを製造することができる黒鉛減速炉の稼働を一旦停止し、最終的には解体することを約束したことがある。だが、その結果、北朝鮮が実行したのは、古くなった寧辺の反射炉(煙突部分)を爆破しただけであった。その後、米朝関係が悪化すれば、たちまち修復して、作動を再開した。現在も稼働してプルトニウムを生産している。
北朝鮮が、もし4つの実験場を破壊したとしても、半年もあれば、実験再開が可能となる。

・核兵器製造に必要な物質の生産については、寧辺の5MW原子炉でプルトニウムを生産している。また、北朝鮮は、自らウラン濃縮を実施していると発言したことがある。地下洞窟の内部でウランを濃縮して、高濃縮ウランを生産している。だが、地下施設なので、どこで実施しているのか不明である。北朝鮮は、この施設を明らかにすべきである。

・北朝鮮は、「朝鮮半島と世界の平和と安定を守り抜くために周辺国と対話を積極化していく」と決めた。これまで注目していた、北朝鮮が非核化を実際に実行する「朝鮮半島の非核化」「核・ミサイルの廃棄」の表現はなかった。
また、北朝鮮は人民に、「米朝会談や南北会談の実施、米韓軍事演習の理解」「在韓米軍の撤退は要求しない」とすることも、これまで一度も述べていない。
 


出典:38Northの資料に西村金一が解説を付け加えたものである。