待機児童ゼロ実現に向けて
―保育所の地域差・賃金を改善し、女性の職場復帰を促せ―

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会長・政治評論家 屋山太郎

「保育園落ちた。日本死ね」というブログの書き込みが政界を揺るがした。いま出産に当たって妊婦の頭を占めているのは生まれてくる子のための保育所の確保ができるかどうかである。これは切羽詰まった問題で、横浜市の林文子市長が「保育所待機児童ゼロ」を公約して、翌年、公約を実現した時には、さすが女性市長は違うと感嘆したものだ。ところが翌年には働きだした女性が多く出て「また待機児童が出た」という。また他県からの転入が多くなったという。
 私事にわたって恐縮だが、目黒で落ち着いて暮らしているものと思っていた息子夫婦が突然横浜に引っ越してきた。出産を控えた若夫婦にとっては保育園に入れるかどうかが第一義の問題で、目黒では無認可保育園しか入園できないという。無認可は高額で入園料を前払いしたものの、不経済で不安だという。「保育園落ちた。日本死ね」という感情が社会にショックを与えたのは、共有する思いが広くあるからだろう。
 自民党から参院選に出馬する山田宏氏は「育児は親の責任だ」とコメントしたが、そう認識している人では、国民の痛烈な不満を理解できないだろう。
 安倍首相が新第3の矢の一本として打ち出したのは出生率1.8の社会である。もともと出生率の向上は主婦が家庭を守って子育てに専念すればいいということではない。新3本の矢の一本はGDP600兆円(現行プラス100兆円)である。子育てに専念するのも自由だが、育児をしながら女性が職場に復帰することも不可欠なのである。
 力仕事は別にして他のあらゆる能力で女性が男性より劣っていることはない。日本の女性の社会進出のバロメーターとして、安倍首相は女性の役付きを3割にすることを求めているが、現状は1.7割がせいぜい。欧米に比べて少なすぎる。
 日本は既に人口減の社会に入りつつある。出生率から見ると日本は既に国家衰亡の淵を超えている。これまでも総理大臣や閣僚が同じことを言ったが一年で内閣交代では、国家的政策として持続しない。その意味では安倍時代が最後のチャンスだろう。
 保育園経営は地域差が大きい。地方では全く困らない地域もあるが、都市圏では認可保育園が全く不足している地域もある。その原因は土地が見つからないほか、規制緩和していない理由だ。また保育士の賃金の低さがある。民進党は月5万円のかさ上げを要求しているが、地域によって5~10万円が必要だ。他の業種の女性賃金は伸びている。現行の賃金体系では志はもっているが「生活できない」から保育士を辞めたという人が多いのは問題だ。フランスでは保育園が足りないと、首長は国から叱責される。産休中の給与も国が支払う。こうしてフランスは出生率1.6から2.02まで向上した。


(平成28年4月6日付静岡新聞『論壇』より転載)